別班の輪郭

前項の自衛隊幹部から話を聞いたのが、2008年4月10日。「陸自が暴走」「文民統制を逸脱」「自衛官が身分偽装」といった記事の見出しが脳裏に浮かび、半信半疑のまま翌11日から早速、資料収集や取材を開始した。

そして記事として最初に新聞に掲載されたのが、2013年11月28日。まさか、5年半以上も「別班」取材に費やすことになるとは、当然のことながらその時はまったく考えなかった。

取材の端緒になったこの幹部は、いろいろと駆け回って情報収集に努めてくれた。当初、別班の姿形はまるで見えなかったが、数回会って話を聞いていくうち、やがて濃い霧のはるか向こう側に、ぼんやりとした輪郭のようなものが浮かんできた。

『VIVANT』で話題の“別班”はリアルに存在した…「通勤ルートは毎日変えろ」「情報提供料名目で1回300万円までは自由に使える」総理も防衛大臣も知らない組織の輪郭_3

彼によれば、別班は陸上幕僚監部の「第2部別班」を振り出しに、組織改編による「調査部別班」を経て、「運用支援・情報部別班」が正式名称(2008年時点)だという(その後、さらなる組織改編によって2017年3月、「指揮通信システム・情報部別班」となっている)。

通称「DIT」と呼ばれており、どうもこれは「DEFENSE INTELLIGENCE TEAM」の頭文字をとった略称だろうということだった。

トップの班長は1等陸佐で、旧日本軍や外国軍の大佐に相当する。歴代、陸上自衛隊の情報部門出身者が班長を務め、人事的なルートが確立している。ただし、全体像を把握する関係者が極めて限られているため、班員数など別班の詳細は不明という。

表向き、別班は存在しないことになっている秘密組織でありながら、陸上幕僚監部運用支援・情報部長(当時)の直属で、本部は防衛省がある市个谷駐屯地内に堂々と存在するともいう。

防衛省の庁舎はおもに次の11棟に分かれている。

■A棟(本館)内局と統合幕僚監部、陸海空の各幕僚監部
■B1~2棟陸海空の通信部隊
■C1~3棟情報関係部隊、機関
■D棟2015年10月に新設された防衛装備庁の主力、防衛監察本部
■E1~2棟支援部隊
■F1~2棟防衛研究所


C1~2棟は、防衛省職員、自衛隊員であっても、許可を受けた者しか入館できない。その他、用途不明の小規模な建物も数棟あるが、別班の本部がどの棟にあるかは不明だった。