上映打ち切りになった『幻の湖』
何が言いたいかといえば、ただ単に公開される映画をぼんやり待つのではなく、もっと積極的に動いて映画を体感できるのではないか? それこそが映画が好きな人間ならではの楽しみ方なのではないか? そう思えて居ても立っても居られなくなり、監督自らが新作映画のために書き下ろした小説をいち早く手に入れて読みふけり、ミクロの集積回路から静止衛星軌道上の宇宙までを舞台にして、戦国時代から現代、そして未来までもを自由に往還し横断する物語の飛躍がどう映画になるのか、脚本家として参加した『砂の器』(1974)や『八つ墓村』(1977)で見せた大胆な構成の進化系ではないかと、胸躍らせて初日に劇場に馳せ参じた橋本忍監督作品『幻の湖』。…田舎の高校生には雄琴のソープ嬢が主人公であることがどういう意味なのががまずわからないし、ジョギングをすることで精神にどのような変化が生まれるのかもわかりませんでした。
病に蝕まれた父親とその幼い息子が厳冬の日本海の海岸線を歩く遍路や、前人未到の冬の八甲田山を踏破する明治の軍人たちの行軍は、映画としての感動をもたらし観客の深層心理に訴えかけるには充分すぎるのに、雄琴のソープ嬢が愛犬と一緒にジョギングをする行為はそこに至ることはなかったし、あれから40年の歳月が過ぎた今なお、答えは誰も導き出していないのです。
せっかくバイブルとも言える原作小説を読んで予習を積んできたのに、釈然としないまま映画館を後にしましたが、も一度小説を読んだ後なら見え方は変わるのではないかと再度劇場に行っても2度目の鑑賞は叶いませんでした。記録的な不入りであっという間に公開は打ち切られ、夏に大ヒットした、たのきんトリオの映画『ハイティーン・ブギ』(1982)と『ブルージーンズメモリー』(1981)の2本立て再映に差し代わってしまっていたのです。