ファンからリスペクトされた映画評論家

「どんな映画にも必ずひとつはいいところがある」「僕はこの映画は嫌いです」日本の映画ファンを育てた淀川長治。斜に構えず茶化しもしない、温かくも厳しい映画眼_1
「ロードショー」1987年2月号
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インターネットの映画レビュー・サイトが充実したおかげで、プロ顔負けの批評が全国から続々と登場するようになり(逆に見てない映画を見たふりして揶揄するなどの冷やかし的な困った状況もあるにはある)、映画評論家なるものの存在があやふやになって久しい昨今ではあるが、少なくとも20世紀には映画ファンがリスペクトするに足る映画評論家が確実に存在していた。

その筆頭として挙げられるのが、淀川長治氏である。リアルタイムで接したことのない今の若い世代も「サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ」の名台詞を発した“サヨナラおじさん”としての彼の存在ならばうっすらと認識できるのではないだろうか。

これは昭和から平成にかけてのTV映画劇場「日曜洋画劇場」の名物解説者として、およそ32年もの間続けた淀川さんが、番組の最後に視聴者へ毎週贈った言葉であり、当時の映画ファンはこれを聞きながら古今東西の映画の魅力を反芻させていったものであった。

1909年4月10日、母親が映画館で映画を見ているときに産気づいて生まれたという、まるで映画の申し子のようなエピソードを持つ淀川さんは、物心ついたころから映画に親しみ、見続け、映画的知識を育んでいった。

当時の映画はサイレント。いわば映画草創期に映画体験をされた貴重な証人であり、淀川さん曰く、現在のほとんどの映画はサイレント時代に作られたもののパターンを踏襲したものであるとのこと。だから「日曜洋画劇場」でも話題の人気作を紹介する際、サイレント映画を引き合いに出しながら解説されることもままあり、そのつどこちらはおよそ100年にわたる壮大なる映画史の流れに想いを馳せたりしたものだった。