前編はこちら

毒色に染め上げられた樋口少年の心

そもそも怪獣ブームの只中に生を受けて怪獣ブームの中で成長したおかげで、愛するものが思いっきり偏ってしまいました。
その根幹をなす『ウルトラマン』のデザイナー、成田亨さんは、毎週1体という驚異的なペースで怪獣や宇宙人を着想する際に、3つのルールを規定し己を律したといいます。かいつまんでいうと、

・存在する生物の単なる巨大化はしない
・異形のキメラ、妖怪にはしない
・臓器が出ていたり血を出したり、生理的に不愉快なことはしない

そのストイックなルールから生まれたものは、現代美術からインスパイアされた人工的でアブストラクトな、非生物とオーガニックな生物のハイブリッドによる斬新な怪獣や宇宙人たちで、テレビの前の我々は夢中になっていくんですけど、すべての怪獣や宇宙人は、成田さんのような崇高な理想に沿って作り出されたとは言えませんでした。ブームに便乗して造られるものの例にもれず、清濁ないまぜで、夾雑物だらけのまがいものまでも貪り、飽食の限りを尽くしていました。

特にあの時期の毒は本当に悪質なものが多く、それがまた魅力的でした。幼少期の純粋な心が、中毒性の高いものばかりに毒色に染め上げられ、刷り込まれ、漬け込まれたおかげで、かっこよかろうが気持ち悪かろうが、異形の怪物が大好きになってしまいました。その潜在的記憶と最新技術によるイメージが軌跡の合致を生み、1982年の『遊星からの物体X』になったのです。

1982年、本作によって頂点を極めたホラー映画の残酷描写。隆盛一途かと思いきや、この流れは途絶えて樋口真嗣を落胆させる。その理由とは!? 【『遊星からの物体X』その2】_1
異形好きの心をとらえずにおかない『遊星からの物体X』の造形
©Capital Pictures/amanaimages
すべての画像を見る