国防に詳しい=『軍事オタク』ではない

長い間、日本において軍事はある種のタブーであった。

軍事に関心を持つのは自衛隊に関わる仕事をしているか、「軍事オタク」と見なされるごく一部の人で、政策論として幅広く議論されることはほとんどなかった。これは、第2次世界大戦後の日本が長い間、安全保障を米国に依存しきっていたために、安全保障や軍事を巡る問題を考えなくてもすむ時代が長く続いてきたことが大きな理由であろう。

国防は一部の官僚や専門家だけのものではない_4

しかし、グローバルなパワーバランスは変化し、米国の軍事力ももはや絶対的なものではなくなってきた。そして、日本周辺に安全保障上の対立が事実として存在しており、日本は、安全保障や軍事について、より当事者意識を持たなければならなくなっている。

そのため、日本人は、善とか悪とかといったことではなく、否が応でも「ステートクラフトとしての防衛力(軍事力)」を、価値中立的に考えなければならなくなってきている。そして、抑止力を強化した上で、安全保障上の対立が戦争にエスカレートしないように、危機管理に取り組んでいかなければならなくなっているのである。

そのためには、一部の官僚や専門家だけでなく、国民全体がある程度の軍事に関する知識を持つことが必要である。日本は民主主義国家であり、自衛隊といえども国の一機関である。ステートクラフトの手段として、自衛隊が戦争を抑止するために適切に整備され、運用されているのか。それを見守り、必要があれば別の意見を提示していくこと、それが納税者としての国民の権利であり、責任であり、義務でもあるのである。

#1 安全保障環境が悪化していく中、日本の国民が考えるべきこととは…

『日本で軍事を語るということ -軍事分析入門』(中央公論新社)
高橋杉雄
2023年7月24日
1925円(税込み)
272ページ
ISBN:978-4-12-005679-6
ウクライナ侵攻が露わにした「大国間大戦争」時代の到来。中国、北朝鮮――日本の安全保障環境が厳しさを増す中、いま必要な軍事知識とは。日本の防衛政策の第一人者による、軍事を理解するための入門書。
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