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「自衛隊を愛せば愛するほど、部内から疎んじられ苦労する」

私は論考を執筆した防衛大学の等松春夫教授とは一面識もありません。また、ここ数年、防衛大学を訪れたこともない。したがって、論考で言及されている内容の事実確認もできないわけで、無責任な発言はできません。今からお話することはあくまでも一般論にすぎないということをまず、お含みおきいただきたい。

元防衛大臣の石破茂議員
元防衛大臣の石破茂議員
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そのうえであえて申し述べるなら、等松教授の論考をただ無視することなく、この告発のなかで防衛大をよりよい組織に改善するために有用だと思われる点を謙虚に受け止め、適切な対応をとることが、防衛省には求められるだろうと考えます。

一連の告発内容についても早急に事実確認をして、事実と認められる点、あるいは指摘により改善が考えられる点については改善策を講じるべきでしょう。その際、個別対応のみに終始するのではなく、組織の構造的な問題に起因しているのではないかという観点からの点検も、これを契機として行うべきではないでしょうか。

防衛省・自衛隊という組織は、他の省庁に比べても、風通しが悪いところがあるのは事実です。私は防衛庁長官、防衛大臣を通算3年ほど務めましたが、国防を真剣に考え、防衛省や自衛隊の改善策などをあれこれと口にすると、部内から疎んじられてしまうこともありました。

防衛庁副長官時代、安全保障論の大家である吉原恒雄元拓大教授を副長官室にお招きして、お話を伺ったことがあります。その時、「自衛隊は好きですか?」と先生から問われて「好きです」と答えると、「だったら、あなたはこれから苦労しますよ」と言われたことがありました。

先生は「自衛隊を愛せば愛するほど、あれこれと改善案を口にされることでしょう。そうすると、あなたは部内から疎んじられ、苦労すると思います。残念ながら、防衛庁や自衛隊にはそんな風通しの悪さがあるのです」と私に忠告してくださったのです。私は農林水産大臣も務めましたが、農林水産省にはそこまでの風通しの悪さを感じたことはありませんでした。

【防衛大告発文に石破元防衛大臣はなにを思う?】「国防を真剣に考え、改善策を口にすると、部内から疎んじられることがある。それが防衛省の一面です」_2

おそらく等松教授もそんな風通しの悪さを感じて告発に踏み切ったのでしょう。だからこそ、告発の内容を吟味し、これを一つの契機として改善へと導くべきなのです。

たとえば、今回の告発には特定の政治的立場にある外部講師を招き、防衛大生の前で講演をさせているとの指摘があります。授業ではなく、記念式典などでの講演や祝辞にすぎず、目くじらを立てるほどのことではないのかもしれません。実際、防衛大内でも言論の自由や学問の自由は認められているわけですから。