核抑止と「核の傘」

第3に、最後の論点として、核抑止を挙げておきたい。

北朝鮮は核・ミサイルの開発と配備を進めている。既に日本を射程に収めた核ミサイルは配備されているとみられ、さらに米国を射程に収める長距離核ミサイルの開発も進めている。中国も質量両面で急激に核戦力を強化しており、2035年には、1500発の弾頭を保有するようになる可能性があるとみられている。これは、現在米露の新START条約での配備上限とされている1550発の弾頭とほぼ同数となる。

国防は一部の官僚や専門家だけのものではない_2

このように、核抑止は日本の安全保障にとって極めて重要な論点となっている。日本は米国の「核の傘」の元にあるが、これだけ状況が悪化してくると、これもまた「10年前と同じ」形で安全と言えるような状況ではなくなっている。

「核の傘」とは「拡大抑止」とも言われる。日本のケースで言うと、対象国(北朝鮮か中国)に対する抑止を、拡大抑止の受益国(日本)に対して、提供国(米国)が提供する、3角形から成立する戦略的な関係である。抑止が機能していると認識されている状態を「信頼性が高い」状態と言うが、この場合の抑止の信頼性は複雑な形で評価される。米国からしてみれば、中国や北朝鮮を抑止すると同時に、日本を安心させなければならないからである。

この点について、1960年代の英国の国防大臣であったデニス・ヒーリーが、「ロシア人を抑止するには5%の信頼性で十分だが、ヨーロッパ人を安心させるためには95%の信頼性が必要である」という言葉を残している。

つまり、敵であるロシア人を抑止するには、核兵器が使われる可能性が5%程度でもあれば抑止できるが、味方であるヨーロッパ人を安心させるためには、核兵器が95%の可能性で使われると信じていなければ安心できないという意味である。これは「ヒーリーの定理」とも呼ばれるが、拡大抑止を巡る米国と同盟国との認識ギャップを端的に要約した言葉としてしばしば引用される。