日本企業から生産性を奪う「重石」

コロナ禍では、世界中でデジタル化を梃子にして、企業の生産性を飛躍的に高めようということが叫ばれた。DX化である。そのためには、仕事のプロセス自体を見直して、成果を追求することがDX化の肝である。

しかし、そうした「絵に描いたようなDX」は進まなかった。DXとは革命的転換を指すが、組織のあり方を変えようとは思わずに、道具であるデジタル機器だけを新しいものに取り替えても、何か新しい付加価値は生まれない。テクノロジーの性能を前提にして組織を変革することが本筋だ。

インフレ下で日本が生き残るカギは「賃上げ」ではなく、カナダや韓国よりも低い「労働生産性」をいかに上げるかにかかっている_3
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そうでなければ、余計な作業が増え続けて、デジタル化は生産性を高めない。最近、日本企業の生産性が高まらないのは、過去に排出された余計な作業=ブルシット・ジョブを処理できないからだという意見が多く見られる。

日本の生産性は、順位こそ低いが、伸び率だけで見ると、コロナ前(2012~2019年)は順調に伸びていた。伸び率は低くないのに、水準が低い理由は、日本の生産性の足を引っ張っている何らかのファクターが重石のようにあるからではないか。

その正体の一つが企業内に巣くっているブルシットだろう。ブルシットとは、品のないスラングで、「くそどうでもいいもの」を指す。「いまいましい」という感じだろうか。利益とは無関係に、無意味なルールを盾に仕事の効率を下げる行為だ。

過去の個人的な体験でも、他人の仕事に割り込んできて、無意味な手続きを押しつけることしかしない人がいる。わかっていながら誰もそれを制止できないこともある。だから、経営者はよほど鋭く監視の目を光らせておかないといけない。会社の中には、ブルシット・ジョブを量産する人が隠れている。上から眺めて見ても、面従腹背の人は見分けにくい。

さらに、日本の組織の課題は、そうした体質をデジタル化と同時に滅菌することだ。日本企業にたまった長年の澱のようなものを一掃する。口だけではなく、皆が勇気を出して、非効率なことにNOをいうことが絶対に必要だ。

私の知っているある辣腕の経営者は、口癖のように「あんたたちは本気で稼ぐ気があるんか?」と言っていた。この問い掛けは、ブルシット・ジョブを殺菌する魔法の言葉になるだろう。

文/熊野英生 写真/shutterstock

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熊野 英生
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2023年5月26日発売
1,980円(税込)
四六判/344ページ
ISBN:978-4-08-786138-9
もはやインフレは止まらない!
これからの日本経済、私たちの生活はどうなる?

コロナ禍やウクライナ戦争を経て、世界経済の循環は滞り、エネルギー価格などが高騰した結果、世界中でインフレが日常化している。2022年からアメリカでは、8%を超えるインフレが続き、米国の0%だった金利は5%を超えるまでになろうとしている。世界経済のフェーズが完全に変わった!

30年以上、ずっとデフレが続いた日本も例外ではなく、ここ数年来、上昇してきた土地やマンションなどの不動産ばかりでなく、石油や天然ガスなどのエネルギー価格が高騰したため、まずは電気料金が上がった。さらに円安でも打撃を受け、輸入食品ばかりではく、今や日常の生鮮食品などの物価がぐんぐん上がりだした。2021年までのデフレモードはすっかり変わり、あらゆるものが値上げされ、家計にダメージが直撃した。

これからは、「物価は上昇するもの」というインフレ前提で、家計をやりくりし、財産も守っていかなければならない。一方、物価の上昇ほどには、給与所得は上がらず、しかもインフレからは逃れられないことから、これはまさに「インフレ課税」とも言えるだろう。

昨今の円安は、海外シフトを進めてきた日本の企業にとってもはや有利とは言えず、エネルギーや食料品の輸入が多い日本にとっては、ダメージの方が大きい。日本の経済力も、かつてGDPが世界2位であったことが夢のようで、衰退の方向に向かっている。日銀の総裁も植田総裁に変わったが、この金融緩和状況はしばらく続きそうだと言われている。

しかし日本経済が、大きな転換点に直面していることは疑いもない。国家破綻などありえないと言われてきたが、果たして本当にそうなのか?
これから日本経済はどう変わっていくのか? そんななかで、私たちはどのように働き、財産を築いていくべきなのか?
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