心得②「今、この瞬間」を味わう
「今、この瞬間」は、セックスを楽しむために大切なキーワードです。
「挿入直前ED」になってしまう人の大半は、「また前回のように、挿入前に萎えてしまったら嫌だな……」といった過去の記憶や不安にとらわれてしまい、目の前で起きている「今、この瞬間」のセックスを存分に味わっているとはいい難い状態です。
ストレスや不安に意識が支配されると、脳の「扁桃体」という部位が活性化され、ストレスがさらに増大します。扁桃体は、脳の左右にある神経細胞の集まりで、感情の処理や直感力、またストレス反応に重要な役割を担っています。
セックスの最中、「また失敗をしたらどうしよう」と不安に駆られると、この扁桃体が活性化し、不安を増幅してしまいます。その結果、不安が現実となってしまう、つまり、「挿入直前ED」になってしまうのです。
このような「心ここにあらず」の悪循環から脱却するためには、意識を「今」に向けなくてはなりません。この状態を「マインドフルネス」といいます。
マインドフルネスは、「今、この瞬間、自分が経験していることに対して、一切の判断をせず、ただ意識している心の状態のこと」とも説明されます。1970年代からアメリカで研究が進み、瞑想や呼吸法などにも用いられ、米国のGoogleでは「マインドフルネス研修」も行われているようです。そして、痛みの治療の現場でも、「今、この瞬間」に集中する考え方は、認知行動療法の一環としてしばしば用いられます。
ただし、このマインドフルネスは一朝一夕でできるものではなく、日常のささいな行動を通じて「今、この瞬間」を味わうトレーニングをしていきます。たとえば、毎日歯磨きをする際に歯の一本一本を意識しながら「あ、今は前歯を磨いているな」「歯茎がくすぐったいな」と、感覚そのものにフォーカスします。歯磨きはせいぜい5分や10分ほどの短い時間ですが、その間、脳は不安から一旦切り離された状態になっています。歯を磨き終わったあと、再び不安やストレスを思い起こしたとしても、次第に不安と距離を置くことができるようになります。
セックスにおいても同様に、「今、この瞬間」の感覚に集中すれば、不安やストレスから解放されて、快感を享受できるようになります。もしセックスの最中に不安にのみ込まれそうになったら、目の前の相手の肌のぬくもり、香り、声、息遣い、目の動きなどひとつひとつに集中してみましょう。「あ、今彼女の肌がうっすら汗ばんでいるな」「目をぎゅっとつぶっているな」など、頭のなかで言葉にして確認するのもよいでしょう。
最初はうまくできなくても、日常生活から「今、この瞬間」を意識するトレーニングを積んでいれば、やがてセックスにも応用できるようになるはずです。
セックスは相手あってのもの。パートナーの反応が気になるのは当然ですが、相手の表情や反応ばかりをうかがっていると、挿入直前EDの負のループから抜け出すことが難しくなります。「今、この瞬間」を生きるには、自分自身の快楽を置き去りにはできません。
若い頃に挿入直前EDが少ないのは、自分自身の欲望に正直だからだとも言えます。中高年になると経験がある分、相手の反応が気になりすぎる側面もあるのです。相手を優先するあまり自分の快楽から目を逸らしているから、今、目の前にあるセックスの快感に没頭できず、挿入直前EDに陥ってしまうのです。