ウクライナ占領で運命が変わるユダヤ人一家

80年前も現在も、戦争で犠牲になるのは市民…映画『キャロル・オブ・ザ・ベル』が教えてくれるウクライナと周辺国の複雑な歴史_4
©MINISTRY OF CULTURE AND INFORMATION POLICY OF UKRAINE, 2020 – STEWOPOL SP.Z.O.O., 2020

やがて、ソ連に代わり独ソ不可侵条約を破棄したナチス・ドイツが街を掌握すると、大家のユダヤ人一家が当局の呼び出しを受ける。まさか命の危険まではなかろうと楽観視するユダヤ人夫婦は、娘二人をウクライナ人夫婦の許に残し、進んで当局に出頭する。そして、そのまま強制収容所へ送られ二度と帰ってくることはない……。

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三家族が住んでいた家にはウクライナ人一家だけが残り、娘ヤロスラワとユダヤ人姉妹、ポーランド人の娘テレサが肩寄せ合って住むことになる。家の空き部屋には、今度はナチス・ドイツの軍人一家が住み始めることになるのだが、特にユダヤ人の娘二人はドイツ軍当局に見つかったら最後なので、観客はハラハラドキドキしながらその先の展開を見守ることとなる。

そこから先はネタバレとなるので、ぜひご自身の目で映画を見て確かめてほしいが、最後の最後に待ち受けている数十年後のエピローグには、映画的な感動を味わえること請け合いだ。

ひとつ屋根の下で暮らしていたウクライナ、ポーランド、ユダヤ人の三家族が領土を奪われ翻弄される物語は、ウクライナの地で今現在も、同様の苦難や悲劇が市民の間で繰り返されているのでは、という想像を喚起させる力がある。


文/谷川建司

『キャロル・オブ・ザ・ベル』(2021)Carol of the Bells 上映時間:2時間2分/ウクライナ・ポーランド

80年前も現在も、戦争で犠牲になるのは市民…映画『キャロル・オブ・ザ・ベル』が教えてくれるウクライナと周辺国の複雑な歴史_6


1939年1月、ポーランドのスタニスワヴフ(現ウクライナ、イヴァーノ=フランキーウシク)にあるユダヤ人が住む母屋に店子としてウクライナ人とポーランド人の家族が引越ししてくる。ウクライナ人の娘ヤロスラワは音楽家の両親の影響を受けているため歌が得意で、特にウクライナの民謡「シェドリック」=「キャロル・オブ・ザ・ベル」は、歌うと幸せが訪れると信じ、大事な場面でその歌を披露する。第2次大戦開戦後、ソ連による侵攻、ナチス・ドイツによる侵攻、再度ソ連によって街は占領される。ポーランド人とユダヤ人の両親は迫害によって離され、娘たちだけが残される中、ウクライナ人のソフィアが、彼女たちを必死に守り通して生きていく。

出演:ヤナ・コロリョーヴァ、アンドリー・モストレーンコ、ヨアンナ・オポズダ、ポリナ・グロモヴァ、フルィスティーナ・オレヒヴナ・ウシーツカ
監督:オレシア・モルグレッツ=イサイェンコ 
配給: 彩プロ 
公式サイト」:https://carolofthebells.ayapro.ne.jp

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7月7日(金) 新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座、アップリンク吉祥寺ほか全国公開