ロシアに占領された国「チェチェン」
ドキュメンタリー映画『チェチェンへようこそ ―ゲイの粛清―』は2022年2月26日より全国映画館にて上映されている。舞台は現代のチェチェンとロシア。1994年から2009年まで続いた地獄のようなチェチェン戦争が終わり、一見「平和で豊かな」チェチェンで今も続いているのが、性的少数派への惨たらしい弾圧、粛清だ。
ロシア連邦の構成国のひとつであるチェチェン共和国は、ロシア南西部に位置する。人口は100万人ほどの小さな国で、住民の大半はチェチェン語を話し、イスラム教を信仰するチェチェン人だ。90年代のソ連崩壊のなか、非ロシア系国家の独立と離反が相次いだが、チェチェンも例に漏れず、独立の機運が高まった。
チェチェンが他のソ連構成国と異なっていたのは、ロシア軍の侵攻により、独立が叶わなかったことだ。ロシアからの離脱を求めたチェチェン独立派は、チェチェン戦争で文字通りの全滅に追い込まれ、僅かな生存者は欧州などに亡命した。
チェチェン本土に残ったのは、プーチンに任命されたラムザン・カディロフ首長率いる傀儡政権の一派。同胞のチェチェン民族を裏切り、プーチンに忠誠を誓い、非人道行為に協力した見返りとして、チェチェンで絶大な富と権力をほしいままにしている。
一方、ロシア本土ではプーチンに批判的な政治家やジャーナリスト、人権活動家らが次々と暗殺されている。そうした暗殺の仕事を直接請け負うのが、カディロフの私兵集団「カディロフツィ」だ。
今回のドキュメンタリー映画は、ロシア内外で繰り返されているカディロフツィの蛮行のうち、性的少数派LGBTQの人たちがチェチェンで直面する脅威に焦点を絞って詳細に描いている。
2月から続いているウクライナ侵略にも、国家親衛隊の身分で参戦しているカディロフツィが深く関与し、現地での蛮行、非人道行為に関わっていることがわかってきた。
日本のメディアでは、ロシアにもウクライナにも知識のないタレント政治家が連日登場し、「市民の犠牲を避けるため、ウクライナは降伏すべき」という論陣を張っているが、残念ながら、この主張は実情から乖離している。
チェチェン戦争で、あるいはロシアが軍事介入したシリア内戦で、ロシアに降伏した反体制派がどうなったのかについては、山のような実例がある。チェチェン戦争では、独立派戦闘員の犠牲者数は最大で3万人であったと言われるが、戦争全体の犠牲者数は20万人だ。つまり、17万人程度が非武装市民の犠牲ということになる。人口100万人のうちの17万人である。抵抗しなければ安全などということはありえない。