単身ウクライナで築いた現地コミュニティ
ドニエプル川に架かる橋を越え、少し歩くと広い公園のような場所へ出た。
その一角にベンチプレス用の器具がずらりと並んでいる。重りは白くペイントされ、たわんだシャフトは錆び付いている。ベンチは古びた木材でできており、柱の部分には重量が手書きされている。一見すると、がらくたを集めてこしらえたようで、日本でいえば昭和を彷彿とさせるような懐かしさだ。
この器具を使い、中年男性や若者たちがトレーニングに励んでいた。ここはウクライナの首都キーウ中心部にある「ギドロパーク」と呼ばれる公園だ。曇り空から小雨がパラパラと降っている4月下旬のことだった。
ジーパンに革ジャンを羽織り、キャップをかぶった中村仁さん(54)が誇らしげに言う。
「ここにあるべンチプレスなどの筋トレ器具は、ソ連時代の廃材を集めて作っています。この屋外ジムができたのは1970年代。僕はこれまで40か国のトレーニングジムを見てきましたが、これほどの規模の屋外ジムは見たことありません」
ベンチプレス以外には、腹筋やアームレスリング用の器具、吊り輪、スパークリング用のリングまで備わっている。
「ここは僕にとっての居場所ですね。1回来ると2時間強はいます。戦争が始まってから1か月は来られませんでしたが、それから公共交通機関が動き出したのでまた通うようになりました」
ジムの管理人やトレーニングに来るウクライナ人たちとは顔馴染みで、中村さんは流暢なロシア語で彼らとの会話を楽しんでいる。内容は時に、歴史や政治的な問題にも及ぶ。そのやり取りを見ていると、ウクライナ社会にどっぷり浸かっているのが一目瞭然だ。
「この場所は僕にとっての『世界遺産』です!」