ビジネスライクでドライな国…「私の友人、安倍さん」の二枚舌
現時点でもそうだが、2030~50年代のインド太平洋地域と世界を見据えたとき、第3の大国に台頭するインドの動向がカギを握る。
当のインド自身は、アメリカであれ、中国であれ、どの国のいいなりにもなりたいとは思っていない。世界のキャスティングボートを握る「スイング国」としての立場を利用して、各国から異なる利益を引き出すことで「世界大国」へ飛躍する戦略を望むだろう。
われわれにとって一見、都合の良いパートナーに思えて、じつは非常に厄介な国だ。けれども、この地域と世界で、影響力を増すことが確実視されるインドを無視するわけにもいかない。万一、インドが中国に飲み込まれる、あるいは抱き込まれるような事態になれば、「自由で開かれたインド太平洋」、リベラルな秩序は崩壊する。そうならないようにするためには、われわれはインドとどう付き合っていくべきなのか?
インドの特性を踏まえたとき、まず強調しておきたいのは、われわれもビジネスライクに徹することだ。インド人のなかに、義理人情とか、人間同士の深い絆のようなものがまったくないとはいわない。
モディ首相は、2022年7月に安倍元首相が凶弾に倒れたのを受け、すぐに「私の友人、安倍さん」と題する長文の追悼文を、数多くの思い出の写真とともに自身のブログに掲載した。さらに、日本政府主催の国葬儀にも出席し、安倍元首相の思い出を岸田首相に語ったときには、感極まって泣きそうになる場面もあったと伝えられている。
けれども、だからといってモディ政権の政策が、そうした個人的関係によって決定されてきたわけではない。
モディ政権が安倍政権時代にとった一連の政策のなかには、安倍首相の意向に反するものはいくつもある。この間のインドは、中国主導のAIIBに参加し、SCOにも正式加盟する一方、クアッドの強化には―少なくとも2020年のガルワン衝突まで―否定的な態度を示しつづけた。極めつけは、安倍首相が旗を振り、インドの加盟が不可欠と呼びかけたRCEP交渉から、モディ首相は土壇場で離脱を表明している。いずれも、インド自身の利害にもとづく判断なのだ。