アルタと称される実利の達成をなによりも重視する戦略文化

インドには、アルタと称される実利の達成をなによりも重視し、そのためにプラグマティックに行動する戦略文化が根付いている。

そこでは、他者、他国との関係は、当然ドライなものにならざるをえない。永遠の友もいないし、全面的な友などもありえない。いま、利害を共にする相手と、協力できるイシューで協力していく。単純にいえば、それだけであり、それ以上のことが頭にあるわけではない。

仏教のつながりや、タゴールと岡倉天心、ボースと日本軍との協力、パール判事の日本無罪論などを論拠に、日本とインドは固い絆で結ばれている「はずだ」、といったロマンチシズムが以前は散見された。

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ナショナリストとしての安倍元首相自身のなかにも、そうした情緒的な前提は当初あったかもしれない。価値観を共有するアジアの民主主義国として、手を携えて中国に対峙できる、そういう発想だ。

しかし、インドはそんなに簡単にわれわれの思い通りになるような都合の良い国ではなかった。第2期安倍政権になると、そうした甘い幻想は後退し、双方の利害がおおむね一致するイシューで粘り強く交渉する傾向が顕著になったように思われる。民生用原子力協力協定の締結や、ムンバイ―アーメダバード間の高速鉄道への新幹線システム導入などは、その成果といえる。