日本企業が苦戦するインド市場
インドに進出する日系企業の進出は2018年ごろから頭打ちの様相をみせている(図表24)。うまくいかず撤退した企業も出ている。質の高い労働力確保の難しさだけでなく、カーストの存在や、労働や消費に対する考え方の違いなど価値観のギャップ、電力、水道、道路、港湾などのインフラの未整備も、その一因だろう。
在留邦人数も、筆者がインドに駐在していた21世紀初頭に比べるとおよそ5倍にあたる1万人近くに増えたとはいえ、中国に暮らす邦人数と比べると10分の1、タイの8分の1にすぎないし、ベトナムや台湾の半分にも満たない。インドの経済規模からすると、物足りない水準だ。日本の企業、ビジネスパーソンがインド進出に躊躇していること、あるいはインドで苦戦していることがうかがえる。
この点では、インドとの利害の一致を追求するとはいっても、インドという国を、「ひとつの国」としてとらえないほうがいいだろう。
日本とは違い、インドは広大な国土を有する。そして中国と比べると、宗教、民族、文化などの多様性はきわめて大きい。インド人というのは、同じ言葉を話し、同じ料理を食べ、同じ衣服を着るひとびとではない。
筆者は、初めてバックパッカーとしてインドを旅したとき、デリーからチェンナイまで、さらにチェンナイからコルカタまで、それぞれ車内2泊の列車旅を経験した。スピードが遅いとはいえ、ほんとうに広い国だということを実感した。
それだけでなく、デリー、チェンナイ、コルカタはどれも大都市だが、街を歩く人の顔つきから、道路の標識に書かれている文字まで、同じ国とはまったく思えなかった。北東部では、日本人そっくりな人たちもいる。筆者自身、デリーを歩いていると、インド人から「マニプーリー?」(マニプル州の主要民族)と声をかけられたものだ。