守護聖人の夢
「えーっと、これは聞きにくいんだけどさ……」
撮影の最後、ぼくは俯きながらノルマさんに聞いた。彼女は笑いながら、こっちを見ている。どんな質問が来るんだろうか、と。
「あなたの、夢はなんですか?」
「……」
ほら、やっぱり。こんな質問するんじゃなかった。少し後悔した。この質問で今日までの関係がこじれるんじゃないかとも思った。
ノルマさんは、じっと黙って空中を見つめていた。そして、ボソッとつぶやいた。
「ここをやめること、かな」
「え?」
一瞬、彼女がなにを言っているのかわからなかった。
「ここをやめることが、夢? アメリカに行く、困っている人を助けているここを、やめる……」
「……困っている人がいなくなって、ここをやめる。それが夢、だね」
やめるために続けている。そんな夢があるのか。
「夢」の意味がわかっていなかったのはぼくだった。彼女たちには、彼女たちの夢がある。ぼくの物差しでは測りきれない夢のカタチがある。
ぼくは未だに思い出す。あのジャングルの熱気を、移民たちの歓喜の叫びを、耳をつんざく列車の咆哮を、そして、列車が運ぶ彼女たちの夢を。
文/嘉山正太 写真/shutterstock
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