あなたの夢はなんですか?
「夢」という言葉がある。誰でも幼い頃に抱く、将来なりたい仕事や目標、あるいは憧れ。そういった意味でぼくらは日常的にこの言葉を使っている。いつかそうなるといいな、と思って、人は努力したりしなかったり。人は夢を抱き続ける。
「あなたの夢はなんですか?」
もう何百人というラテンアメリカの人に、ぼくはこの質問をしてきた。そして、その度に、胸にトゲが刺さったような少しだけ苦い感覚を覚えるのだった。
それはなぜか。日本では定番のこの質問。だが、世界のいろいろな場所では、この質問が定番になっていない。「夢」の意味がわからない人が、そこにはいる。そのとき彼らは、質問の意味がわからない。そして、その「わからなさ」という手触りを感じるとき、ぼくは、途方に暮れた感覚に陥る。またこの質問をしてしまった、と後悔する。ぼくらと同じような夢を持っていることが当たり前と思っていた自分に失望する。
ぼくと彼らの間には、深い川が流れているのを感じる。それはまるで、アメリカとメキシコの間に流れる、国境沿いの川のように暗く、冷たく、そして深い。その川の存在を感じる度に、やるせない気持ちになる。なぜ、こんなにも川が暗く、冷たく、深いのか。なぜ、彼らは川の向こう側にいて、ぼくらはこちら側にいるのか。あるいは、彼らから見れば、ぼくらが向こう側で、彼らがこちら側にいる。
ぼくは夢を抱くことになんの疑問を持つことなく、この歳まで生きることができた。それはとても特殊な環境でもあるということを、ぼくは川を渡って、気づいたのだった。