「チャリで来た」少年

その日、お昼をみんなで食べて、午後は思い思いに休んでいた。ここでの生活はのどかだ。列車が来るまでに準備をしておくだけでいい。ぼくは中庭に出て涼んでいた。あれ? 1人の移民の少年が、見馴れた服を着ている。彼は、ぼくが寄付した服を着ていた。彼はまだ幼くて、10代の少年に見えた。

「やあ、どこから来たの?」
「ホンジュラスから」
「何歳なの? かなり若そうに見えるけど」
「16歳」
「え? 16歳って、めちゃくちゃ若いね」
「おじさんがアメリカにいるから、俺も行ってみようかなって」
「すごいね」
「前にいた街でさ、ここの噂聞いて」
「え、噂? パトロナスの?」
「なんかめちゃくちゃ親切なおばちゃんたちがいるって」
「めちゃくちゃ親切なおばちゃんたちね……ふふ、たしかに……」
「あんたどっから来たの?」
「ぼくは、日本から。でも、メキシコシティに住んでるんだ」
「あんたはアメリカ行かないの?」
「ぼく? ぼくは……行かないな」
「そっか」
「……なんで、アメリカ行ってみたいの?」
「えーなんでだろう、やっぱ向こうの方がチャンスがありそうじゃん。地元にいても、なにもないし」

「あなたの、夢はなんですか?」日本では定番のこの質問が、時としてラテンアメリカの人々に通じない理由_2

ぼくは少し戸惑っていた。初めて会った移民の少年の、キラキラした瞳に。
「ここまでは電車で来たの? 危なくなかった?」
「ちょっと待ってて」そう言って、彼は奥に引っ込んでしまった。

しばらくして彼は現れた。手には、ボロボロの自転車を抱えて。
「なに、それ?」
「俺、これで来たんだ」
「え?」
「この自転車に乗って来たんだよね」
「え? どっから? ティエラブランカから? 数十キロあるでしょ?」
「違うよ、ホンジュラスから、この自転車に乗って来たんだよね」