10年間温められた脚本に運命を感じた
──水道料金滞納者の家庭との関わりをきっかけに、水道局員が自分の生き方を見つめ直す『渇水』。生田さんの出演作は、『土竜の唄』(2014、2016、2021)シリーズ、『湯道』(2023)などエンターテインメントの王道を行く華やかな作品が多い印象がありますが、今回は平凡な水道局員役。新境地を開拓していると感じたのですが、出演の決め手について教えてください。
原作小説は30年前に出版され、その小説をもとにした脚本は10年前から存在していたんです。「素晴らしい脚本」と映画業界で噂だったそうですが、読んで納得しましたね。必ず映画にしようという、この脚本を大切に守ってきた人たちの熱気みたいなものが感じられました。それが時を経て、自分のもとにやってきた。運命のようなものを感じました。
──主人公は“最強の凡人”だから、逆にこれまでそういう役を演じたことのない生田斗真さんに演じてもらいたいと、制作スタッフがオファーをしたと聞きました。
うれしかったです。スタッフのみなさんの熱い思いをたくさん聞かせていただきました。映画化のために努力を積み重ねてきた方たちから「この役は生田さんに演じてほしい」とおっしゃっていただき、これ以上の喜びはないと思いました。
──この映画は『孤狼の血』(2017)『死刑にいたる病』(2022)などで知られる白石和彌さんの初プロデュース作品です。
白石さんとは撮影に入る前にいろいろなお話をしました。脚本に惚れて「これを世に出したい」と白石さんと長谷川晴彦さんがプロデュースすることになり、映画化に向けて年月をかけて整えていったそうです。
白石さんからは「必ずいい作品になります。現場のクオリティも保証しますからよろしくお願いします」とおっしゃっていただきました。練りに練り上げた脚本と準備万端で整えられた現場なので、ワクワクしながら撮影に入りました。
──生田さんが演じた水道局員の岩切俊作は、自分の仕事に対して疑問を持ちつつも、その気持ちを封印して黙々と働いてきた男です。どこに魅力を感じましたか?
悩みやストレスがあってもネガティブな思いを仕事に持ち込まないというのは、社会人として当たり前のことだと思いますし、みなさん、そういう社会のルールを守って生きていると思います。僕もそのひとりです。
でもふとしたことで、そのルールから逸脱したいと思うこともあると思います。抑制していた何かが決壊して、自分でも想像できない行動に出てしまう。この映画の岩切はまさにそういう状況に陥ります。
でもそれは人生において悪いこととは言えないのではないかと思います。岩切は今までの規則に縛られた人生を「正しいと思うことのために変えてみてもいいんじゃないか」という思いに至るんです。これは誰にでも当てはまる感覚だと思いますし、そういうところに魅力を感じました。