演じる上で参考になったスタッフとの話し合い
──本作では、岩切が関わる母子家庭の親子が出てきます。母親(門脇麦)が水道代を滞納していたことから、岩切は姉妹(山﨑七海・柚穂)と知り合いますが、この姉妹はネグレクトされている子供たちですよね。生田さんはこのふたりの境遇について、どう思われましたか?
水道料金滞納者の伏見(宮藤官九郎)が「なんで水道を停められなくちゃならないんだよ!」と岩切に強く当たるシーンがありますが、そのとき岩切は「規則ですから」と、感情に蓋をして冷静に対応します。姉妹の家に行ったときも同じような対応で、同僚の木田(磯村勇斗)に「かわいそうじゃないですか」と言われても水道を停めるんです。
でも、母親は帰ってこない、お金もない。そんな中で水道も停めてしまって、「本当にこれでいいのか? 間違っていないか?」と彼は立ち止まるんです。
あの姉妹の存在があったからこそ、岩切は自分の生き方に疑問を持つようになった。もちろんネグレクト問題も重要ですが、僕の中では変化のきっかけを作った姉妹という見方の方が大きかったですね。
──髙橋正弥監督などスタッフとはかなり密に話し合って、この映画の世界を作り上げていったそうですね。
スタッフの方たちから制作が決まるまでの経緯などを聞いているうちに、誰もが持っている心の痛みとか、後悔していることの話になったんです。
「あのときもっとこうすればよかった」とか「何であんなこと言っちゃったんだろう」とか。過ぎたことだと思っていたけれど、意外と心の傷になっていて、いまだに癒えないとか。僕はほぼ聞き役でしたが、その話が意外と岩切の状況に重なる部分もあったので、演じる上で参考になりました。
──この映画の生田さんは地味なヴィジュアルですが、見た目の役作りで工夫したところはありますか?
実は岩切のメイクは凝っているんですよ。ザラザラとした肌の質感を出すために、ファンデーションを直接肌に塗るのではなく、歯ブラシにファンデーションをつけて、ピッピッと肌に飛ばして吹き付ける感じでメイクしているんです。
映画で僕の肌がボコボコして荒れているように見えるのですが、あれはメイクのテクニックなんですよね。あとフィルムカメラで撮影している効果もプラスされていると思います。
──髙橋監督とは初タッグですが、いかがでしたか?
髙橋監督は助監督時代に多くの有名監督に付いて活動されていて、そのときから業界では「才能あふれる人」と評判だったそうです。そんな話を聞いていたので、初めてご一緒させていただきましたが、最初から安心感、信頼感がありました。
とにかくリアリティをとても大切にしている監督で、姉妹を演じた子役の彼女たちには脚本を見せず、現場でセリフを伝える演出法をとっていました。
例えば岩切と木田が彼女たちの家の水道を停めに行く場面など、ふたりはなぜ僕たちが来たのか、理由は知らないんです。そのときの彼女たちのリアクションのナマっぽさに、僕らも合わせていかなければならないので、演じるというより、その場の空気を感じることが大事だと思わせてくれる演出でした。