世間に背を向けるDNA

――ひと口に「探検」と言っても、部員ごとに捉え方が全然違うんですね。

極端すぎるのは考えものですよね。部員が減ったのは、当時の幹事長が過激だったせいもあるかもしれない。「山登りや川下りをやめて、宇宙ロケットか深海探査機をつくることを真剣に考えるべきだ」とか言う人でしたからね。

その人は物事を根源から突き詰める人で、「ラジカル佐藤(著書ではラジカル加藤)」という名前で、本当に無茶苦茶な人だった。

卒業後は一般企業に就職したんだけど、「会社に行くのがつらい」って、僕が住んでいた3畳間のアパートにやってきてゴロゴロしてる。

ある日、佐藤さんが電気に関する本を読んでいて、聞けば「上司にパソコンを覚えろって言われたもんでな」って。「パソコンを習え」って上司に言われて、彼は電気の成り立ちから調べていたんですよ。

「エジプトで静電気が発見されたのが電気のはじまりなんだ。高野、知ってるか?」と。

――卒業後も部員同士でつながっているのが少し意外です。

探検部時代に大きな実績を残したすごいやつも、適当に部室に出入りして酒を飲んでいただけのやつも、関係なく仲がいいんです。

――現役の学生との交流もあるんですか?

けっこう前ですが探検部主催の講演会に呼ばれて、その後、現役部員と飲み会にも行きました。そのときにびっくりしたのが喫煙率の高さ。

聞いていた近頃の大学生とは違って、部員たちの多くがタバコを吸うし、すっごく酒を飲む。僕らの時代の学生みたいでした。要するに、世間に背を向けてるんですよね。

――早稲田探検部のDNAは強烈ですね。

もっというと、僕らより歳が上の人たちも、基本的に同じ考え方なんです。勝手に引き継がれていってるんですよね。

喫煙と飲酒の話をツイッターでつぶやいたら、僕より10個年下の角幡唯介(ノンフィクション作家)が「今の現役いいですね」って、初めて反応してきましたよ。それまで僕のツイートに反応したことなんてなかったのに(笑)。

「アヘン王国に潜入」「コンゴで本気で怪獣探し」早稲田探検部レジェンドOB・高野秀行が語る“誰もやらない生き方”「40代まで売れなくて…」_3
コンゴで謎の怪獣モケーレ・ムベンベ発見に挑む高野さんら探検部員 『幻獣ムベンベを追え』より