かっこいいと思うのは、自分で自分の機嫌を取れる人
――それなりの年齢になっているのに「全然大人じゃない」と感じている人は多いと思います。又吉さんが考える「大人」像はありますか?
いろんな考え方があると思うんですけど、僕は人に迷惑かけないのが大人かなと思うんですよね。最低限そうなりたくて。
僕が「かっこいいな」と思う大人って、必ずしも一般的には「成熟している」とは言われないような、むしろ「少年ぽいね」と言われる人が多かったりするんです。
でもその人たちみんなの特徴として、自分で自分の機嫌を取れる人が多いんですよね。
余裕があって心配させない。これが僕には欠落してるんです(苦笑)。もともと気分屋で、年齢を重ねるにつれてマシにはなってきたんですけど、まだ完全にコントロールできてないところがあるんで、それは目指したいですね。
――わかります。年齢が上がってくると、それだけで周りに気を遣わせることも増えますし。
僕なんて特に気を遣われやすいです。本来はそういうタイプじゃなかったんですけど。同級生や同期の芸人から「ほんま20年前から変わらんな」って言われるんですよ。
20年前にこのテンションやとめっちゃ変な若手芸人で、温度低かったりしてちょっと生意気にも見えるんですね。
だけど生意気であることで得せずに損してるから、先輩たちや同期から「又吉はああいうやつやからな」で許されてきたんです。「アホやな」ってことで。
――なるほど。
でも芸歴重ねて変わってないとなると、それが偉そうに見えてしまうときが出てくるんですよね。「スタッフさんにああいう感じなんや」とか「笑顔じゃないんや」とか。
挨拶とお礼はちゃんと言うようにしてるんですけど、普通に過ごしてるとボーッとしてたり愛想悪いと思われたりして、誤解されるようなこともあって。
そこで「俺は俺」っていうこともできるけど、社会で生きていくからにはあまり周りの人には負担をかけたくない。
だから昔よりは「機嫌いいようにしとこう」って考えるようになって、自分ではまぁまぁできるようになってきたつもりやったんですけど……周りの話聞いてると、なんか、どうやらできてないっぽいですね(笑)。
――本書でもそういうエピソードがたびたび出てきますが、社会人としてできたほうがいいとわかっていてもどうしても苦手なことってありますよね。
そうなんですよね。ちょうど一昨日くらいに区役所行って必要な手続きをひとつクリアしました。「社会と関わらない」って気持ちではないんですけど、やっぱり苦手は苦手なんですよ。
だからそれができる人のことはすごい尊敬してて。たまに現れる、そういうことを代わりにやってくれる人たちのおかげでやっていけてます。
「いいんだよ、又吉はそういうのが苦手な代わりにお笑いやったり文章書いたりしてるんやから」って励まされて「なるほど、そうか」って思ったり。
でもそしたら「表現してるからって社会性なくても大丈夫みたいな感じを出すな」って別の人から言われて、どうしていったらいいん?ってなったり。だから甘えちゃダメなんでしょうね。難しいですよね。
取材・文/斎藤岬 写真/松木宏祐
過去の自分と、点において平等。又吉直樹が考える時間と人間 はこちらから
『月と散文』
又吉直樹