イギリス映画が体現した『生きる』への愛情と敬意

“リメイク” は常に爆死リスクと隣り合わせ。黒澤明の名作をカズオ・イシグロが蘇らせたイギリス映画『生きる LIVING』は、失敗か? 成功か?_4
『The Ring』ではナオミ・ワッツ(左)が主演を務めた
Moviestore Collection/AFLO

その他、数多くリメイクされているジャンルといえばホラーだろう。中田秀雄監督の『リング』(1999)のヒットで日本にホラーブームが巻き起こり、その熱波は<ジャパニーズホラー>として海外にも波及した。

『リング』(1998)→『The Ring』(2002)、『呪怨』(2000)→『THE JUON』(2003)、『仄暗い水の底から』(2002)→『ダーク・ウォーター』(2005)、『着信あり』(2004)→『ワン・ミス・コール』(2008)などなど。

ジャパニーズ・ホラー独特のドロリと粘着質な恐怖が海外では新鮮だったようだけど、その粘ついた怖さを再現できていないリメイク作が多く、視覚的にハデになりがちでファンには賛否両論だったようだ。

こうしてチェックしてみると、日本映画のリメイクは多い。それはヒット作のネームバリューを見越してだったり、自分が心動かされた感動を変換して今に伝えたいという欲求だったり、動機は様々だ。

ただし、リメイクに手をつけるのならオリジナルへの愛情と敬意、新しい作品=別物を創るという志がなければ意味がない。
そして冒頭に紹介した『生きる LIVING』は、その鉄則をきっちり守っている。

“リメイク” は常に爆死リスクと隣り合わせ。黒澤明の名作をカズオ・イシグロが蘇らせたイギリス映画『生きる LIVING』は、失敗か? 成功か?_5
『生きる LIVING』
©Number 9 Films Living Limited
すべての画像を見る

オリジナルに敬意を払いつつ脚色をしたカズオ・イシグロの深く流麗なセリフ。
39歳のオリヴァー・ハーマナス監督の新鮮な感性。そしてなにより、オリジナルの志村喬にはなかった淡い色気を漂わせ、英国紳士を演じたビル・ナイのキャスティング。

原作を知らない若い世代の心にも響く秀作が誕生したのも、納得だ。



文/金子裕子

『生きる LIVING』(2022)Living 上映時間:1時間43分/イギリス

“リメイク” は常に爆死リスクと隣り合わせ。黒澤明の名作をカズオ・イシグロが蘇らせたイギリス映画『生きる LIVING』は、失敗か? 成功か?_6

©Number 9 Films Living Limited

1953 年。第二次世界大戦後、いまだ復興途上のロンドン。公務員のウィリアムズ(ビル・ナイ)は、今日も同じ列車の同じ車両で通勤する。ピン・ストライプの背広に身を包み、山高帽を目深に被ったいわゆる“お堅い”英国紳士だ。役所の市民課に勤める彼は、部下に煙たがられながら事務処理に追われる毎日。家では孤独を感じ、自分の人生を空虚で無意味なものだと感じていた。 そんなある日、彼は医者から癌であることを宣告され、余命半年であることを知る。 彼は歯車でしかなかった日々に別れを告げ、自分の人生を見つめ直し始める。手遅れになる前に充実した人生を手に入れようと。仕事を放棄し、海辺のリゾートで酒を飲みバカ騒ぎをしてみるが、なんだかしっくりこない。病魔は彼の身体を蝕んでいく……。ロンドンに戻った彼は、かつて彼の下で働いていたマーガレット(エイミー・ルー・ウッド)に再 会する。今の彼女は社会で自分の力を試そうとバイタリティに溢れていた。そんな彼女に惹かれ、ささやかな時間を過ごすうちに、彼はまるで啓示を受けたかのように新しい一歩を踏み出すことを決意。その一歩は、やがて無関心だったまわりの人々をも変えることになる。

3月31日(金)より全国ロードショー
配給:東宝
公式サイト:ikiru-living-movie.jp
©Number 9 Films Living Limited