「脂肪味」の鈍化が脂質中毒への第一歩

本能という抽象的な話から医学的な話に移りましょう。
長い間、人間の舌が感じる味覚は5つあるとされてきました。「甘味」「塩味」「酸
味」「苦味」「うま味」です。
味覚は必要な栄養を摂取し、危険な食べ物を避けるために備わっています。甘味はエネルギー源となる糖質を、塩味は必要な栄養素のミネラルを、うま味はたんぱく質を摂取するためにあります。酸味は腐敗した食べ物を避けるため、苦味は毒を避けるためにあります。
物を食べると、舌にある味蕾という器官が、これらの味覚を感じて脳に伝え、脳が消化器官に指令を与えて対応を始めます。

2018年10月、九州大学のグループが、味覚に関する新たな発表をしました。
6つ目の味覚、「脂肪味」が存在することを突き止めたのです。
そのメカニズムはほかの味覚と同じで、あぶらを食べると味蕾が脂肪を感じて脳が指令を伝えます。人は「あぶらはおいしい」と感じる味覚を持っていたのです。
問題なのは、ほかの5つの味覚よりも、脂肪味の感じ方は個人差が大きいという点です。
砂糖や塩が多すぎる料理は誰もがマズイと感じます。
しかし、あぶらを感じとる脂肪味の力は微細で、多い少ないを誰もが明確に感じとるのが難しいようなのです。

ほかの5つの味覚よりも解明が遅くなったのも(うま味は20世紀初頭に日本で発見、それ以外は19世紀以前に発見)、舌の脂肪味の力が微細だったからかもしれません。

ただでさえ量を感じとるのが難しいのに、あぶらを大量に、それも毎日のように食べ続けていると、脂肪を感じる味蕾の細胞はさらに鈍くなっていきます。
余談になりますが、繁華街に行くと、とんでもない量の脂が入ったアブラマシマシで有名なラーメン店を見かけますが、あれは脂肪味が鈍感になった人を商売相手にしているのではないでしょうか。
ひょっとして(とりわけ女性は)、「私はあぶらを毎食、毎日食べないから大丈夫」と思うかもしれません。

しかし、詳しくは「社会的」な理由の項目で説明しますが、今の食べ物、とくに市販されている食べ物には、必ずといっていいほど、油や脂が添加されています。本人はあぶらを食べているつもりはなくても、気をつけておかなければ、知らず知らずのうちに脂肪味は鈍感になっていくのです。

人間の脳内には「報酬系」と呼ばれる部位があり、ここが刺激されると快感を得ます。
あぶらの入ったおいしい料理を食べると、ドーパミンという化学物質が活性化され、この脳内報酬系が刺激されます。アルコールや麻薬で快感を得るのも、この報酬系のシステムによるものです。

人は快楽原則にのっとって生きているので、「もっと気持ち良くなりたい」と思い、ドーパミンを出すために、徐々にあぶらの摂取量が増えていってしまうのです。

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