あぶらを欲するのは人間の本能

最初に説明しておきますが、本書には「脂質」と「脂肪」という単語が多く出てきます。どちらも同じ意味ですが、基本的に「脂質」は食物を食べたときに得られる脂肪、「脂肪」は体につく脂肪に使っています。また、「脂」「油」「あぶら」
という言葉もたくさん出てきます。おもに「脂」は肉類などの動物性脂肪(常温で固体)、「油」は植物や魚からとれる植物性脂肪や魚油(常温で液体)、「あぶら」はその両方を指します。

まずは「生理的」な面から説明していきましょう。
話は太古の昔にさかのぼります。
ヒトが誕生したのは200万年前、現在の人類につながる新人類が誕生したのは20万年前と考えられています。

想像してみてください。我々の祖先はいつもおなかをすかせていました。農業も畜産業もないのですから、食料は自らの手で探し出して、採って、捕まえて、食べるしかありませんでした。食料が豊富な夏の季節ならまだしも、植物が枯れ、動物が動かなくなる冬になると、常に飢えと隣り合わせにいたはずです。

飢餓に備えるため、しばらく食べなくても大丈夫なように、人はエネルギーを蓄えておくことができます。それが体につく脂肪です。
エネルギーを蓄えるために、最も効率的なのは、脂質を摂ることです。
穀物などに多く含まれる炭水化物(糖質)や肉や魚に含まれるたんぱく質は1グラムあたり4キロカロリーですが、油や脂(脂質)は1グラムあたり9キロカロリーのエネルギーを含んでいます。

炭水化物の倍以上のエネルギーがあるのですから、飢えに備えるために、脂質を摂るのはすごく効率的ですよね。
おそらく、脂質を上手に摂ることができ、脂質を「おいしい」と感じる味覚を持ち、たくさん食べてきた祖先のほうが、飢えをしのぐことができ、子孫をたくさん残すことができたはずです。

我々は、そんな油や脂で飢えをしのいできた人類の末裔です。
つまり「あぶらを摂れ」「あぶらはおいしい」という本能が残っている
のです。

あぶらのしっとりとしたまろやかな食感を、脳が好むのはこのためでしょう。
大昔は食料を探し出すのが大変でしたが、現代は食べ物があふれています。米も豆も肉も魚も野菜も、お店に行けばすぐに手に入ります。
しかし、本能レベルには「あぶらはおいしい」と感じる力と、「あぶらを摂れ」という意識があります。そのため、脂質でエネルギーを補給しなくても問題ないのに、ついつい脂質を摂りすぎてしまい、脂質中毒になってしまうのです。

なぜ脳は脂を要求するのか? 死亡リスクを劇的にあげる脂質中毒の原因は、自己責任だけでない、厄介な脂依存症だった!_1
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