間違いだらけの名古屋めし#2

名古屋めしはどれもこれも味が濃い!?

「名古屋めしはどれもこれも味が濃い!」
これもよくいわれるフレーズです。実際にインパクトが強く後を引く味つけの料理が多いため、こうした印象を受けるのも無理のないところ。〝濃い〞という表現も決して的外れとはいえません。

ただし、味が濃いという表現は、地域によっては今ひとつピンと来ないこともあるようで、関東出身の知人から「味が濃い、ってどういうこと? 醬油辛いってことですか?」と首をひねられたことがあります。

かようにざっくりと〝味が濃い〞と評される名古屋めしですが、これをより正しく表現すると、濃いは濃いでも「うま味が濃い」ということになります。
「うま味」もまた何となくぼんやりとした味のイメージのように思われがちですが、実はれっきとした味の種類のひとつです。味の基本味である「甘味・酸味・苦味・塩味」、これに続く第5の味覚が「うま味」なのです。(ちなみに「辛味」は刺激であって味の種類には含まれません。)

では、なぜ名古屋めしは味が濃いのか? その根幹には豆味噌があります。豆味噌については続く第2節で詳しく解説しますが、豆味噌は愛知・岐阜・三重の東海3県に生産も消費もほぼ限られ、他の地域で食べられている米味噌、麦味噌と比べておよそ2倍ものうま味成分を含んでいるのが最大の特徴です。

さらには、やはり東海地方で愛用されるたまり醬油。これはもともと豆味噌の上澄みから生まれたもののため、他の醬油よりもうま味成分が多いのが特徴です。

つまり名古屋をはじめとする東海地方では、全国のどの地域と比べてもとびきりうま味が強い味噌と醬油が使われてきたのです。

味噌と醬油は和食の味つけの基本となるものです。このふたつの使い方で地域の味の輪郭が概ね決まるといっても過言ではないでしょう。そのどちらもが際立ってうま味が濃いのですから、名古屋の味つけは総じてうま味が濃くなり、そしてまた人々の好みもまたうま味が濃いものこそがおいしい、という「うま味嗜好」となります。

特に昭和世代であれば、朝は味噌汁を飲んで育ったという人も多いでしょう。毎朝毎朝、豆味噌によるうま味が濃い味噌汁を飲んでいれば、必然的にうま味嗜好が育まれます。現在では朝はごはんよりもパン、という家庭の方が多いとされますが(米穀機構の2012年の調査でパン5:ごはん4)、それでも親や、普段使いの飲食店の料理人がうま味嗜好なのですから、若い世代でもやっぱりうま味重視の食文化にどっぷりハマって成長していくこととなります。