名古屋人のうま味嗜好はソースにも象徴される

名古屋人のうま味嗜好は、和食だけでなく洋食の分野でもいかんなく発揮されています。それを象徴するのが名古屋に本社を置く「コーミ」の「こいくちソース」です。

ソースは日本農林規格(JAS)ではウスターソース、中濃ソース、濃厚ソースの3規格が定められ、粘度や無塩可溶性固形分(うま味・甘みの指標)によってそれぞれ標準・特級の等級に分けられます。この規格が定められた1974(昭和49)年、コーミは自社の製品が他社よりもうま味成分が多いことから、特級の上を示す「こいくち」を商品名としました。

ソースのシェアは全国ではブルドックソース、オタフクソース、カゴメがトップ3で、東日本はブルドックソースが一強、西日本はオタフクソースをカゴメが追う格好になっています。ところが、東海地方だけは勢力分布がまったく異なります。コーミが先の3強を抑えて、30%強のシェアナンバー1を誇っているのです。

しかもコーミの全国シェアはわずか2%程度(2017年、「流通ニュース」参照)。他地域ではほとんど食べられていない豆味噌が東海地方でのみ圧倒的存在感を示しているのと同様、名古屋および周辺エリアではソースの好みもまたオンリーワンの地域性=うま味嗜好が際立っているのです。

名古屋めしはこのような強固な地域性にともなううま味嗜好に合わせて生まれ、好まれ、浸透していったものがほとんどです。

味噌を使わない料理でも、やはりうま味嗜好にのっとったものは枚挙にいとまがありません。きしめんはつゆにたまり醬油を使うのが基本ですし、麵も熟成させることでうま味を引き出しています。ひつまぶしはたまり醬油ベースのタレが使われます。

台湾ラーメンもミンチをじっくり炒め煮することで辛さの奥にうま味があり、あんかけスパゲッティのソースもやはり時間をかけて具材のうま味を凝縮したものです。第一印象では辛みが際立つものでも、その奥にうま味があり、だからこそクセになるというわけです。
 
したがって「名古屋めしは味が濃い」は、「名古屋めしはうま味が濃い」というのがより正しいといえるのです。