名古屋人は実はあんまりきしめんを食べていない?!
では、最も食べられているきしめんは最もおいしいきしめんなのか? 失礼を承知で尋ねてみました。
「〝名古屋で最もおいしいきしめん〞を目指しているのでしょうか?」
「いえ、そういうわけではありません。低価格でよりスピーディーに。その条件の中で、最大限おいしいきしめんを目指しています!」
利用者のほとんどは乗車前のわずかな時間に立ち寄る人。リーズナブルさとクイックサービスが何より優先度が高く、その中で可能な限りのおいしさを追求していると、てらいなく答えてくれました。
では、旅行者や出張族はさておき、なぜ地元の人にもこんなにウケるのか?
「こう言っては何ですが、名古屋の人は普段あまりきしめんになじみがないと感じます」と桑原さん。大阪出身で2013(平成25)年に転勤で名古屋へ来た桑原さんは、赴任当時、意外な思いをしたと言います。
「名古屋の人に〝家できしめん食べるんですか?〞と聞くと、大半の人が〝うどん〞と答えるんです」
この指摘は的を射ていて、名古屋では長らく深刻な〝きしめん離れ〞が進んでいました。乾麵の生産量は減少の一途、市内のうどん店からは「ひどい時は一日に一杯も出ない日もあった。打つのが馬鹿らしくなるくらいだよ」という声も聞こえてきたほどです。
つまり、名古屋の人も、きしめん経験値は県外の人とほとんど変わりがなく、それゆえ立ち食いのきしめんに旅行者と同様に「うまい!」と感動するというわけです。
旅行者が駅の立ち食いで「きしめんはうまい」と思ってくれるのは、名古屋人にとってもうれしいこと。しかし、名古屋人が彼らと同じように「これが一番!」と舌鼓を打っているのはちょっとさびしく感じます。一杯380円(安い!)の立ち食いきしめんは、あくまでお手軽に食べられる入門編であるはずなのです。
せっかく地元の名物に興味をもってくれた旅の人に対し、「じゃあ、今度は街なかの本格派のきしめんを食べさせてやろう」とアテンドしてこそ、本場の住民らしいおもてなしといえるのではないでしょうか。