母と妹の何気ない日常が

「私はA子を責めていません。すべて統一教会の責任と思っています。A子と話していても、話がかみ合わないんですもん。ちゃんと治療を受けるべきやと、ずっと言うてきました。みんな鬼母みたいなこと書いてるけど、あれは病気なだけなんです。
支柱であった(A子の)母が亡くなり、弟(徹也の父)の自殺に子どもの病気。A子自身も死んでもおかしくない状況やった。統一教会にすがるような思いでいったわけですよ。脱会させるために何をやっても無理やった」

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山上容疑者とみられるツイッター

山上容疑者のツイッターにも、家族の辛苦がこう綴られている。

〈オレが14歳の時、家族は破綻を迎えた。統一教会の本分は、家族に家族から窃盗・横領・特殊詐欺で巻き上げさせたアガリを全て上納させることだ。70を超えてバブル崩壊に苦しむ祖父は母に怒り狂った、いや絶望したと言う方が正しい。包丁を持ちだしたその時だ〉

「脅すだけでは無理なんですよ。治療を受けさせなあかん。でも、治療にまで本人を持っていくのがどれだけ大変か。みなさんマインドコントロールって言うてますが、そんな優しいもんやない。脳が壊れてしまっとるんです」

なぜ、山上容疑者含む3人のきょうだいは、統一教会にはしる母と決別の選択をしなかったのだろうか。

「3人は母親のことは絶対悪く言いませんでした。自分の母親ですやん。徹也の妹もA子が統一教会に没頭する中でも、『お母さん、お母さん』言うてね。何度裏切られても、A子は、3人にとって母親なんですよ」

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高校時代の山上容疑者

2022年7月8日、事件当日、伯父は、すぐにA子と徹也の妹を保護するために、自分の家に呼び、約一ヶ月にわたって母と妹と生活を共にした。

「来たときはほんと、顔つきが違うっていうか、もう信仰やってるっていう感じで。汚れた服着てね。20日間ぐらいおったんかなぁ。アマゾンで野菜とか、色々取り寄せてね、ここで料理を作り始めてくれたんですよ。
私はなるべく、会わないように、極力避けてました。親子2人で楽しそうにやってましたよ。その姿を見ていたら、統一教会さえなければ、こういった生活を歩んでいたんだろうなって思いますよ」

親子2人水入らずの生活――。そこに山上容疑者、そして、兄がいれば、と思える、山上容疑者が喉から手をが出るほど欲していた、ありふれた普通の親子の生活が、目の前にあった――。

「お兄さん、ありがとう」

伯父が家の庭の雑草を山上容疑者の妹と抜いていると、突如、リビングからA子がそうつぶやいたのだ。

「徹也たちのこと、ありがとうって。初めて聞きましたよ」