下呂温泉の思い出と、この旅初めての車内自炊食

しばらくすると、国道256号は飛騨川に突き当たる丁字路となった。
交わる道路は国道41号、北上すると日本有数の温泉街である下呂市に向かうルートだ。
よし、今日は下呂で温泉に入ろうと決め、左折した。

余談だが、小学校低学年の頃、岐阜との県境にある愛知県春日井市に住んでいた僕は、下呂という地名との初めての出会いを、とても強く記憶している。
小2の頃だったか、給食の時間に同級生がいきなり「『ゲロ』っていう町があるの、知ってる?」と言い出し、クラス中が大騒ぎになったのだ。
嘘だ嘘だ、汚いこと言うな、そんな町あるもんかと僕を含む皆から口々に責め立てられ、その友達は半泣きになりながらも、「本当だもん。この前、家族で行ったもん」と主張していた。

名前も忘れてしまったが、あのときの彼には申し訳ないことをしたと反省している。
きっと家族で下呂温泉に行ったのだろう。
でも、何も知らない小2の子供にとっては、インパクトのありすぎる語感だったのだから、仕方がない。
ちなみにその友達は下呂事件のほとぼりも覚めぬ頃、「ねえねえ『カニ』って街があるんだよ。親戚が住んでるんだ」と言い出し、皆から「また始まった」とオオカミ少年を見るような目で見られていた。
今思えばおそらく、岐阜県中南部の可児市かその東の可児郡のことを言っていたのだろう。
彼、元気かな?
本当にもう、小学生ってやつは……。

ハンドルを握りながら、そんな昔のことを思い出していたら、雨に濡れる下呂温泉街に着いた。
スマホで日帰り入浴ができる施設を探し、「河鹿の湯 露天風呂クア・ガーデン湯元遊園」というところを見つけた。
露天風呂のみの潔いつくりだったので、雨空の下での入浴となったが、わずかに白濁しトロッとした下呂の湯はとても気持ちよかった。

車中泊旅の防犯対策と車内自炊はいかに? 秋の郡上八幡、そして下呂温泉へ_14
河鹿の湯 露天風呂クア・ガーデン湯元遊園

風呂上がりの時点でまだ日は高かったが、雨は土砂降りだ。
これから長野県に入って一気に安曇野まで行こうと考えていたのだが、距離的に近い北上ルートは険しい峠道が続くので少々怖い。
やや遠回りだが急ぐ旅でもないので、一旦、南東方面に下ることにした。
長野県飯田市から北上するルートは、地形的に木曽山脈と南アルプスに挟まれた谷底にあたるので、アップダウンもカーブも少なそうなのだ。

今日はとにかく先に先に行きたかったので、夕食のための時間は取らないことにした。
そのため、長野県に入ったところでスーパーに立ち寄り、車の中で軽く調理して食べられそうな食材を調達する。
メインディッシュは、山梨県産の和牛肩ロースステーキだ。

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スーパーで買った食材と調味料

21時過ぎにようやくたどり着いた道の駅アルプス安曇野ほりがねの里の駐車場の一角に車をとめ、車内で肉を焼いた。
調理用具はアウトドア用のコンパクトバーナーと、ホットサンドメーカーのプレートの片側。
このホットサンドメーカープレートは、鉄板が厚いためか、肉がとても上手く焼ける。

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コンパクトバーナー
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ホットサンドメーカー

火を使うときは一酸化酸素中毒が心配なので、車内で常時稼働させているCOチェッカーがきちんと作動しているかどうか、事前に一度確認することにしている。

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COチェッカー

塩胡椒で下味をつけて焼き、ステーキソースはあまり好きではないので、粗挽きマスタードをつけて食べたステーキ肉。
車中泊の自炊メシって、なんでこんなに美味しく感じるのだろうか。

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念のため、バーナーの周りは防火シートで囲む
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粗挽きマスタードで食べる

車の屋根を打つ雨音は、一向に静まらない。
きっと今夜は一晩中降り続けるのだろう。
モバイルスピーカーを使い、ジューク・ジョイント・ブルースのオムニバスを静かな音でかけていたら、なんとも侘しくなってきた。
でも、たまにはそんな気分のまま眠りにつくのも悪くない。

明日は晴れるかな?

画像・文/佐藤誠二朗