ジョブ型雇用への転換は急務

リベラルな社会の働き方の原則は「同一労働・同一賃金」で、同じ仕事をしているのなら、人種や性別、国籍、性的指向などの属性にかかわらず、同じ待遇でなければならない。ところが日本の会社では、同じ仕事をしているにもかかわらず、「身分」が異なるという理由で劣悪な待遇に処せられている多くの労働者がいる。

「真正保守」を掲げた安倍元首相が「非正規という言葉をこの国から一掃する」と宣言したのは、日本だけの特殊な雇用制度が「(リベラルな社会では許されない)身分差別ではないのか」との国際社会のきびしい視線を無視できなくなったからだろう。ふだんは「反安倍」のメディアや知識人も、どれほどリベラルな主張をしていても、差別を容認するのでは、定義上、「差別主義者」になってしまう。

こうした「不都合な事実」が示すのは、グローバリズムが日本的雇用を破壊して日本が貧しくなったのではなく、差別的な日本的雇用が日本の労働者を不幸にし、労働生産性の低い働き方に固執したことで「衰退途上国」といわれるまでに落ちぶれたことだ。

日本経済が復活するためにも、差別のないリベラルな社会をつくるためにも、ジョブ型雇用への転換を進めなくてはならない。そのためには、ジョブがなくなったら公正な基準で社員を金銭解雇し、労働市場に戻す制度が不可欠になる。

問題は、こんな当たり前のことを、ジョブ型雇用を推進しようとする人たちですら口にできないことだろう。

取材・文/橘玲