歴史や文化を引用するロシアのファッションブランドのトガった魅力
桜が舞う春の原宿。閉店前日の「BUNKER TOKYO」から、閉店セールで買い込んだらしく大量のショッパーを抱えた青年ふたりが出てきた。振り返って記念撮影をしながら、「この情勢さえなければ」としみじみと語り合って去った。ロシア軍によるウクライナ侵攻の影響が及んだ閉店なのだ。
きれいに整理されていながらも、防空壕を意味する「バンカー」という店名そのままのような不思議な印象を受ける店内。閉店間際とあって品数は限られるが、SNSでもたびたび拡散された個性の強いブランドのアイテムがそろう。1980年代のモスクワを訪問したことがあるお客にはソ連の国営店のようだと言われたこともある、と語るのはスタッフのRyuseiさん。
「歴史や文化を踏まえ、それをパロディにするようなデザインが多いのがロシアのファッションブランドの魅力かなと思います」
彼もまたロシアのデザインに魅了されたひとりだ。
2010年代半ば、「COMME des GARCONS(コム・デ・ギャルソン)」の川久保玲氏のサポートを受けて「Gosha Rubchinskiy(ゴーシャ・ラブチンスキー)」が流行し、ロシアのユースカルチャーが注目されるきっかけとなった。そこからロシアブランドを深掘りし始めて「BUNKER TOKYO」のファンになり、2年ほどスタッフを勤めた22歳だ。
「特に人気だったのは『Ssanaya Tryapka(サナヤ・トラヤプカ)』。民族的なモチーフを用いながら、かなり毒が強くてブッ飛んだ世界観を構築しています。サナヤは際どい表現をしすぎてインスタグラムのアカウントがBAN(停止)されていたり、そんなストーリーも含めて好まれていました。そういう意味ではガチのデンマークギャングスタが作っていた『MUF10(ムフティ)』も人気でした。服役していたイラン系移民のデザイナーがゲリラショーから始めたブランドなんです」
Ryuseiさんは続ける。
「このお店の強みは、とにかく新しくてブランドやデザインのエピソードに事欠かないことだったと思っています」
客層は幅広い。もともとのロシア好きのほか、地域は関係なく新奇性の強いデザインを求めるお客も多かったという。実際、SNSの口コミには「原宿で一番トガってるかも」といったコメントが並ぶ。
「『Norbu(ノルブ)』という、僕がオーナーに頼んで取り扱い始めたチベット仏教をモチーフにしたブランドがあります。ロシアにチベット仏教が盛んな地域があるんです。そういうロシアの広さ、何でも引用してしまう感じが魅力的でした。服をただ消費するのではなく、学んで深めていける、カルチャーを着ているようだと感じていて。ロシア軍によるウクライナ侵攻を受けて、ソ連だからダメ、ロシアだからダメ、とはならないでほしいです」