宗教家・瀬戸内寂聴氏の回答

宗教となれば、この方にお話を伺わないと始まりません。2021年に99歳で惜しまれつつ亡くなった瀬戸内寂聴さん。26歳の娘が「あるキリスト教関係の宗教に洗脳され、わけのわからないことを言い出し」たと悩む母親から、相談が寄せられます。娘さんは仕事もやめ、家を出て、宗教の仲間たちと生活をともにしているとか。この宗教は「人様に高価な物を売りつけたりすることはないようです」とも。瀬戸内さんは、こう答えます。

〈娘さんも誰にもいえない、どうしても満たされない心の空洞をもてあましていたのでしょう。その本人が宗教に入った今、幸せだというなら仕方ないでしょう。(中略)また彼女の入っている宗教は、お金もうけが目的でないだけ、あたまから邪教とはいいきれないような気もします。世の中には、ただお金もうけのためだけに人の弱みにつけこんで、得体の知れない高価な物を半ば脅しのような形で売りつける宗教も少なくありません。(中略)今はしばらくそっとしておいて、静かに祈ってあげましょう。きっと娘さんは帰ってくると私は思います〉
※引用:瀬戸内寂聴著『いのち発見』(講談社、1996年刊)

宗教がもたらしてくれる効能を認めつつ、頭に血が上っているときはまわりが何を言っても無駄だと諭してくれています。「どの宗教が真に正しいかは、まだ誰にもわかりません。やがて時がすべてを証明してくれるでしょう」とも。宗教によって救われ、世間の毀誉褒貶にさらされた瀬戸内さんらしい回答と言えるでしょう。いつか帰ってきてくれたら、相談者の母親としては何より幸せな展開です。ただ、娘さん本人にとってそれが“幸せ”とは限らないのが、宗教や人生や人間の難しいところですね。

「身内がアヤしい宗教にはまった」の悩みにマツコや美輪明宏らが答える_1
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もとに戻ることを「あきらめてください」

次も、大学を卒業したばかりの娘が新興宗教にのめり込んでことを悩む親からの相談。ちょっと様子がヘンだと思っていたら、いきなり「やりたいことがあるから」と会社をやめてしまったとか。「どうすればものの素直な子どもになってくれるでしょうか」と悲痛に問いかけます。産経新聞の人生相談コーナーで長年人気を集めていた精神科医・頼藤和寛さんは、宗教はウイルス性の感染症に似ていて治療法がないと言いつつ、こうアドバイス。

〈「もとの素直な子ども」に戻るのはあきらめてください。考えようによっては、これまでは素直な「実家教」の信者だったのが、別の素直な「何々教」の信者に移行しただけなのです。(中略)どうしても引き戻したかったら、教団が与える以上の生きがいや充足感を家庭が提供できるような工夫が必要でしょう。もちろん被害者親の会を作って教団に対抗するのも一法で、これは相手に何か違法性がある場合には有効でしょう。ただし、本人を無理に教団から引き離そうとすれば、余計に発熱するのは恋愛に似ています〉
※初出:産経新聞の連載「家族診ます(のちに「人生応援団」に改題)」(1991年2月~2001年4月)。引用:頼藤和寛著『定本 頼藤和寛の人生応援団』(産経新聞社、2001年刊)

大事な娘を教団に“奪われた”親としては、なかなか厳しい言葉です。「教団が与える以上の生きがいや充足感を家庭が提供」するのは容易ではないでしょう。とはいえ、子どもがアヤしい宗教にはまっている状況は、黙って見過ごしたくはありません。どうにかするためには、これまでの接し方や、なぜはまったのかを考えることもたしかに大切ですね。

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