残された“助けてくれ”の録音

山中の広場に浮き上がる「SOS文字」の写真を新聞各社が掲載し、社会は衝撃を受けた。

のちに“大雪山のミステリー”と呼ばれることとなるこのケースにおいて、その象徴となる写真だった。ある記者は木文字をして「大自然にそぐわない――デジタル時計の文字のようだ」と所感を書き残している。

大雪山(写真/PhotoAC)
大雪山(写真/PhotoAC)

混乱は発見された人骨の鑑定結果が出たあたりで最高潮に達する。

当時、旭岳周辺で遭難、行方不明のままとなっていたのは2名。

同年6月27日に行方不明となった東京都の48歳男性。そして1984年(昭和59)7月に入山し、戻らなかった愛知県江南市の会社員・Iさん(25)だけ(註記:ほかにも1989年4月に小型プロペラ機に乗って消息を絶った3名もおり、飛行ルートが現場と近かったため関連が疑われたが、現場状況からその線は薄いと判断された)。

前者の48歳男性がSOSをつくったにしては木材および遺留品の風化が激しすぎたため、関係者予想では後者のIさんが大本命とされていた。

だが、違った。

旭川医大による人骨の鑑定結果、性別は「女性」――。20代〜40代の女性のもので、身長は約160㎝、血液型はA型、死後1〜3年が経過しているとのことだった。

ひどく濡れた状態で発見されたテープ(ソニー製45分テープ)がさらに混乱を招いた。

写真はイメージです(写真/PhotoAC)
写真はイメージです(写真/PhotoAC)

道警が乾燥させ、再生してみると、大声で叫ぶ男性の声が吹き込まれていた。

「エースー、オーオー、エースー たーすーけーてーくーれー ガーケーのーうーえーでーみーうーごーきーとーれーずー」

すべての語尾を伸ばす形で叫んでいた。

「SOS 助けてくれ 崖の上で 身動き取れず」
「場所は 初めにヘリに あったところ」
「ササ深く 上へは行けない ここからつり上げてくれ」

テープA面の最後に2分17秒にわたって以上のメッセージが録音されていた。

遺留品は男性を示しながら、人骨は女性――しかも、周辺で遭難・行方不明のままになっていた女性はおらず、皆が首を傾げる事態となった。この場所で何があったのか――。

山中の男女、「作成に2日は要しただろう」と登山関係者に評された巨大なSOS、残された録音、これらの奇妙な組み合わせに、新聞だけでなく、週刊誌が飛びつくこととなる。

のちに怪談や都市伝説まで生むこととなる“大雪山・旭岳SOS遭難事件”の始まりだった。