歩荷ってどんな仕事?
“歩荷”とは、登山道や山間部など、車両が入れない場所に荷物を運ぶ担ぎ手のこと。かつては全国各地に存在したが、いまや専業で行なう人はごくわずかになった。
そんななかで、現役の歩荷として活動する人物がいる。どんな依頼を受け、どのような思いでこの仕事を続けているのか。特に夏の暑さが厳しいこの時期、業務の過酷さはどれほどのものなのか――。福島県、新潟県、群馬県の3県にまたがる尾瀬エリアで11年間歩荷をしている現在32歳の萩原雅人さんに話を聞いた。
――歩荷として萩原さんが行なっている仕事内容について教えてください。
萩原雅人(以下、同) 私たち歩荷は、山小屋に物資を届けるのが仕事です。私が活動している尾瀬エリアでは、保存が効くものは月に一度ヘリコプターでまとめて運ぶんですが、保存が効かない新鮮な野菜や生鮮食品、飲料などは、私たちが歩いて山小屋まで運んでいます。
尾瀬では現在、全部で11つの山小屋と契約しているのですが、どの小屋に運ぶにも、出発地点は「鳩待峠」で、ここがゴール地点でもあり、拠点となっています。
運ぶ距離は、一番近い至仏山山荘の山ノ鼻地区で片道3.3km。ここは比較的距離が短いので、1日に2往復しています。一番遠いのは、片道12km先にある温泉小屋や、見晴地区の小屋。他にもあるルートを平均して考えると、1日に9kmくらい歩くことになりますね。
荷造りをして出発するのはいつも朝8時くらい。どの山小屋さんもご厚意で昼食を用意してくださるので、だいたい12時に山小屋に到着するペースで歩いています。2往復する場合は、2回目の荷物もお昼に着くように調整していますね。間に合わせようと頑張る人もいれば、ベテランになると「早く着きすぎると困るから、どこで時間を潰そうか」と考えながら歩く人もいます。下山して勤務を終えるのはだいたい午後3時頃です。
――現在、尾瀬エリアで活動している歩荷は何人いますか?
いま尾瀬には、歩荷が7人います。最年長は49歳で、歩荷歴28年目。二番手が35歳(13年目)、私が三番手で32歳、今年で11年目です。
その下は、45歳(5年目)、24歳(2年目)、41歳(2年目)、そして28歳(1年目)。年齢もキャリアも本当にバラバラなんですよ。
――歩荷はどのような給与体系なのでしょうか?
重さと距離で報酬が決まる仕組みです。たとえば、3.3kmのコースだと、1kgあたり85円くらい。9km歩くコースなら、だいたい1kgあたり165円くらいですね。
一度に運ぶ荷物は、平均すると75kgくらい。多い時だと1日に180kgを担ぐこともあります。9kmのコースで75kg運べば、1日の運搬で1万2千円から1万3千円くらいの収入になります。
――話題になったポスト《私達は週6回80kgの荷物を背負って片道10kmの道のりを歩きます。》にもありましたが、週6日勤務しているのは本当なのでしょうか。
そうですね。基本は週6勤務で、月曜が休みです。今年は常駐隊として別の山に行くメンバーもいるので、その分、尾瀬の歩荷はカバーし合いながら週6勤務を回しています。
5月中旬に、10月までのシーズン中のスケジュールが発表されるんです。「誰がどこの小屋に行くか」というスケジュールが週単位で組まれていて、そのローテーションを毎週こなしています。