大雪山で発見された“謎のSOSサイン”

1989年(昭和64)。長らく続いた昭和が終わり、新元号である平成に切り替わった年。日本はバブル景気の真っ只中。

日経平均株価は年の暮れにその後34年間にわたって超えられることのなかった最高値―場中38957.44円を記録。任天堂が「GAME BOY」を発売し、子どもたちに大人気を博していた。

同年スタジオ・ジブリが『魔女の宅急便』を公開、一部の熱心な“アニメ”ファンたちがじんわりとトンボへと嫌悪感を向けた一方、年間オリコンランキング3位を飾った長渕剛『とんぼ』は熱心な“アニキ”ファンたちに支持された。

世界に目を向ければベルリンの壁の崩壊――冷戦の終結。のちに世界の転換点であったと評される年となった。

ベルリンの壁跡(写真/Shutterstock)
ベルリンの壁跡(写真/Shutterstock)
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そんな年の夏。7月24日。北海道の中央に位置する連峰、大雪山。古くはアイヌたちがカムイミンタラ――“神々の遊ぶ庭”と呼んだ場所でささやかな遭難事案があった。

東京から登山に来ていた男性(62)が黒岳から旭岳へとトレイル中、仲間とはぐれたのだ。

同日中に北海道警航空隊がヘリ“ぎんれい1号”にて周辺を捜索する過程で、旭岳頂上から4㎞離れた地点の湿地帯にて倒木を並べてつくったと思しき「SOS」を発見。

横幅は約15m、一文字あたり縦5m、横幅はおおむね3m前後。道警は遭難男性が助けを呼ぶためにつくったものと判断、念のため写真を撮影した。

18時50分。その「SOS」から2〜3㎞ほど北上した旭岳南側付近で遭難男性を発見、無事保護した。

道警はてっきり「SOS」はその男性が作成したものと思い込んでいたが、尋ねてみれば男性は「そんなもの知らないよ」という。

写真はイメージです(写真/Shutterstock)
写真はイメージです(写真/Shutterstock)

道警では登山者によるイタズラかと訝ったが、付近にまだ遭難者がおり、救援を待っている可能性は捨てきれないとし、翌日再び同地点にヘリでレスキュー3名を急行させた。

問題の湿地は約1ヘクタール。山間を流れる雪融沢に面する開けた場所で、救助ヘリは件の「SOS」地点へ降り立った。

そこで木文字の北側約10〜30mの範囲に散乱していた大腿骨、骨盤、上腕骨などの人骨数片を発見する。人骨だけではない。

カセットテープレコーダー、アニメソングが収録されたテープ、歯ブラシ、シャンプーなどの洗面用具、セルロイド製カップ、山王神社の御守り、リュックサックなどの遺留品も見つかった。遅すぎたのだ。

観察してみれば組まれた木文字にも枯れ草などが絡まり、その風化具合から一冬以上は経過していると見られた。

使われていた風倒木は計30本ほど。太さ20㎝、長さ5mという木材もあったという。警察発表ではシラカバとされているが、実際は枯れたアカエゾマツだったようだ。