還暦を迎えたいま、大槻ケンヂが見つめ直す創作
そんな若かりし頃の話から、一気に時計の針を現在へ。
大槻ケンヂは今年2月、還暦を迎えた。
音楽に対する気持ちは、年齢を重ねて変化してきたのだろうか?
「あのー、えーっとー、自分は昔から音楽に対してはすごくコンプレックスがあるんです。楽器も大してできないし、楽典的なこともわからない。周りには、ハンパなく上手いミュージシャンたちが多いので、とても“ミュージシャン”なんて名乗れないような感じなんですよ、本当に。申し訳ないというか、おこがましいというか。
だから今、生まれついての天才のようなミュージシャンからしてみると、僕のような規格外で、音楽的なところから離れた人間が、音楽のフィールドで何十年もやれてるっていうことは逆に面白いようで。よくしてくださいますよ、大人のみなさんが(笑)」
様々なバンド、ユニット、ソロと並行的に音楽活動を続けているが、やはりメインは「筋肉少女帯」であることは変わらないという大槻。
その「筋肉少女帯」の音楽性は、時期によって少しずつ重心を変えてきた。1980年代からバンドブーム期にかけての初期は、ナゴムレコード周辺のインディーズ文化の中で生まれた、パンクやニューウェーブの感覚にプログレッシブな展開を持ち込んだ個性的なロック。三柴理のキーボードも大きな役割を果たした。
1989年に橘高文彦と本城聡章(ともにギタリスト)が加入して以降は、ヘヴィメタルやハードロックの要素が強まり、テクニカルでドラマティックなサウンドへと発展する。
そして1999年の活動停止を経て、2006年の再結成以降は、そうした要素を統合した重厚なバンドサウンドを現在まで鳴らし続けている。
「今の『筋肉少女帯』は、かなりのラウドロックなんですけど、僕はどうも、そんなにラウドロックの人間ではないなっていう思いもあります。喉もそんなに強くないし。でも、その乖離もまた面白いなぁと思うんです。自分の声質がメタルとかパンク的な、シャウト系に合うってことも自覚してるんです。
だけど僕、うん、そういうロックがほんとにそんなに好きかっていうと、そうとも言えないなと思ってる。そんな自分が今、面白いんですよね……」
第三詩集『幻と想』には、2019年に発売された「筋肉少女帯」20枚目のアルバム『LOVE』に収録されている楽曲『喝采よ! 喝采よ!』の詩も収められている。
同書の各章冒頭に掲載された大槻書き下ろしのエッセイでは、その曲について次のように記している。
「『喝采よ! 喝采よ!』は昭和歌謡、ズバリ言ってジュリーをやりたくて書いた曲です。歌っていて一番気持ちがいい歌です。だって気分はジュリーさんなんだもん」(『幻と想』より)
また今回のインタビューでもこんなことを漏らしている。
「最近はイベントで、カラオケ大会みたいなのをやるんですけど、この前は中村雅俊しばりでやりました。そういう方が好きなんだよねー。そういうのやりたいんだけどなぁ」
冗談とも本気ともつかない大槻の物言いに、こちらが返事をしかねていると、さらにこんなことを続けた。
「やっぱり60歳にもなるとシャウトって大変な作業なんですよ。でも60歳を超えたミュージシャンで、まだまだシャウトしてる方もたくさんいるじゃないですか。いやー本当にね、若い頃にシャウトしたやつは、還暦過ぎてもシャウトし続けなきゃいけないんですね。
でもシャウト系ロッカーは、そもそも体力がある人がやるパターンが多いんです。体幹がガッチリしてる人。その点でも僕はね、根本がダメなんです。いやぁ、本当に疲れちゃうんだよな……」
取材も終盤に差し掛かり、話題は“今とこれから”に移っていった。
「今は少し立ち止まって、今までの作品を総括したいと思ってます。僕は作品数がすごく多い方なので、これからもポンポンと新しいものを作るより、ちょっと今までやってきたものを自分の中でもう一回見つめ直してみたい。だから、今回詩集を出せたっていうのは非常にいいタイミングでしたね」
還暦を機に自らの軌跡を冷静に見据える。それは、次なる創作へ向けた一種の“リセット”なのかもしれない。
大槻ケンヂの視線は、鋭く前を向いているようだ。
おおつき・けんぢ/1966年2月6日生まれ、東京都出身。男性シンガー・作家。
1988年、ロックバンド「筋肉少女帯」のボーカルとしてメジャーデビュー。
またバンド活動と並行して、小説やエッセイを執筆。映画化された『グミ・チョコレート・パイン』など著書多数。現在はバンドやソロなど、さまざまな活動を行っている。
公式HP◆http://www.okenkikaku.jp/
大槻ケンヂ還暦記念書籍『幻と想 03-25 大槻ケンヂ自選詩集』
『リンウッド・テラスの心霊フィルム』(1990年)、『花火』(2003年)『花火』に続く、待望の第三詩集。116編を自ら厳選し、すべてに手を加えた。また収録されたエッセイからは、所属事務所の倒産、「筋肉少女帯」の解散、インディーズからの再始動、コロナ禍での騒動など、「オーケン激動の20年」を読み取ることができる。(4月17日発売/百年舎)
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大槻さんも所属したナゴムレコードのエピソードも盛りだくさん!
1980年代に熱狂を生んだブームを牽引し、還暦をすぎた今もインディーズ活動を続けるアーティストから、ライブハウスやクラブ、メディアでシーンを支えた関係者まで、10代から約40年、パンクに大いなる影響を受けてきた、元「smart」編集長である著者が徹底取材。日本のパンク・インディーズ史と、なぜ彼らが今もステージに立ち続けることができるのかを問うカルチャー・ノンフィクション。
本論をさらに面白く深く解読するための全11のコラムも収録。
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取材・文/佐藤誠二朗 撮影/木村琢也
※「よみタイ」2026年4月18日配信記事















