「核共有」という論点

「核共有」(ニュークリア・シェアリング)について、高市首相は「タブー視せずに議論すべき」と主張してきました。この政策は非核保有国が核保有国の核兵器を自国領土内に配備し、有事の際には使用に関与できる仕組みを指します。

NATOでは、冷戦期から核共有が実施されてきました。ベルギー、ドイツ、イタリア、オランダ、トルコの5カ国が、アメリカの核兵器を自国内に配備しています。

平時はアメリカが管理していますが、有事の時のために配備国の航空機が核兵器を運搬・投下する訓練が行われています。これにより配備国は核抑止力の一部を担い、核戦略の決定過程に一定の発言権を持つことができます。

高市首相が核共有の議論を提唱する背景には、前述した「核の傘」の信頼性への懸念があります。特にトランプ政権の再登板により、同盟へのコミットメントが再び問われる可能性があります。

(高市首相Xより)
(高市首相Xより)
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核共有は完全な核武装よりもハードルが低く、かつアメリカとの同盟関係を維持しながら核抑止力を強化できる選択肢として検討されているのです。

しかし、日本での核共有導入には多くの論点が存在します。

まず、法的な問題があります。政府は従来、憲法9条の下でも自衛のための必要最小限度の実力として核保有は理論上可能としてきました。ですが、原子力の利用を平和目的に限定している「原子力基本法」という法律があります。

核共有導入におけるさまざまな論点

また、非核三原則との関係も問題になります。核共有は明らかに「持ち込ませず」の原則に反します。非核三原則は法律ではなく政策ですが、国民感情に深く根付いており、これを変更することへの抵抗は大きいでしょう。

さらに、国際的な反発も予想されます。日本は唯一の戦争被爆国として、核軍縮の推進役を果たしてきました。核共有の導入は、この立場と矛盾します。

そして、核不拡散条約(NPT)との整合性も問題となります。NPTは核兵器国以外の核保有を禁じています。NATO型の核共有は冷戦期に始まったため、条約上は明確に禁止されていません。しかし、新たに核共有を始める国が出れば、NPT体制全体を揺るがす可能性があります。

地理的・軍事的な問題もあります。最大の課題は「運搬手段(デリバリー)」です。NATOの核共有で使用されるB61核爆弾は、戦闘機が敵地上空まで侵入して投下する「自由落下爆弾」です。例えば世界で最も濃密な防空システムを持つ中国軍に対し、自衛隊機が核爆弾を抱えて北京上空へ侵入することは、現代戦においてほぼ失敗に終わります。

したがって、日本にとって軍事的に意味のある核共有とは、NATO型のコピーではなく、「中距離核戦力(INF)」や「潜水艦発射型巡航ミサイル(SLCM―N)」の共同運用という、より高度で政治的ハードルの高い形態にならざるを得ません。