琴線に触れるということ

ちょっと余談ですが、「怒っている人」に着目して組織を観察することは、組織を立体的に捉える方法の一つとしてお勧めです。

精神科医の水島広子先生語録の一つに「怒っている人は困っている人*1」というものがあるのですが、これは本当に真理だなぁと、組織に分け入るたび、自分自身の身の周りで起きることを俯瞰するたびに思います。

今回の話で言えば、組織の非公式のルールについて、部外者から疑問を呈されるのですから、相手にとっては不快、不安な場合が多々ある。ただ、怒りは最初に感じる一次感情に次ぐ二次感情ですから、一次感情としては、まずは「戸惑い」なわけですね。

目に見えるのは「抗議」や「反抗」という形かもしれませんが、必ずその前に、その人は何らかの事情で戸惑ってしまったのだということを理解したいところです。

「反抗的な奴め」と個人を戒めにかかる前に、この人の熱量を怒りのほうへ向かわせてしまった組織の地雷は一体どこにあるのか? という視点で冷静に情報収集を続けたいものです。

ちなみにこの営みは、スムーズでタイパよく事が進むことを好む人にとっては特に、忌避される状況なはずです。しかしそこを避けると、問題の表層をなぞり、個人の能力の問題として誰かを悪者にするような、小賢しい手立てに終始するのがオチだと、経験上思うので、慎重かつ果敢にいきたいところです。

誰も問題提起しないからこの現状があり、声なき声が埋もれているのなら、やれる状態にある人がやろうではないですか。

さも当たり前のように大人がしたり顔で語るが、実はうやむやにされていそうな点について、自分が小学生になった気分で、「あのちょっと、スッと頭に入ってこなかったんですが」「今お話を伺っていて、一般的な○○のことばの意味とは違う感じがしたので、少し深掘りしたいのですが……」などと前置きしながら。

写真はイメージです 写真/Shutterstock
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また同時に、個々人の「解釈の傾向」と照らし合わせながら、職場を何度も見回り、実際の仕事の回し方を捉え、言語化します。そうしていると十中八九、当初「問題」とされたものが本質的には「問題」ではなさそうだぞ、と気づくのです。

文/勅使川原真衣

脚注
*1 水島広子『怖れを手放す』星和書店、2008年、69頁。

働くということ 「能力主義」を超えて
勅使川原 真衣
働くということ 「能力主義」を超えて
2024年6月17日発売
1,078円(税込)
新書判/264ページ
ISBN: 978-4-08-721319-5

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他者と働くということは、一体どういうことか?
なぜわたしたちは「能力」が足りないのではと煽られ、自己責任感を抱かされるのか? 
著者は大学院で教育社会学を専攻し、「敵情視察」のため外資系コンサルティングファーム勤務を経て、現在は独立し、企業などの「組織開発」を支援中。本書は教育社会学の知見をもとに、著者が経験した現場でのエピソードをちりばめながら、わたしたちに生きづらさをもたらす、人を「選び」「選ばれる」能力主義に疑問を呈す。
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本書は働く人の不安につけ込んで個人のスキルアップを謳う凡百のビジネス本とは一線を画する。」――村上靖彦氏(大阪大学大学院教授、『ケアとは何か』『客観性の落とし穴』著者)推薦!

◆目次◆
プロローグ 働くということ――「選ぶ」「選ばれる」の考察から
序章 「選ばれたい」の興りと違和感 
第一章 「選ぶ」「選ばれる」の実相――能力の急所
第二章 「関係性」の勘所――働くとはどういうことか
第三章 実践のモメント
終章 「選ばれし者」の幕切れへ――労働、教育、社会
エピローグ

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