チームリーダーが部下にモヤモヤ、なぜ

コンサルティング企業で人事系のコンサルタントとして順調に業績を積み上げ、人柄も良い林さん(仮名、男性30代)は、新しく立ち上がったチームのリーダーに抜擢されました。

新規に作られたチームだったので、一から決めなければいけないことが山ほどありましたが、チームワークも良く、みんなで協力し合いながら着々と準備が進んでいきました。配属されたメンバーは、林さんと年齢が近かったこともあり、みんなで彼を支えていこうという和気藹々とした雰囲気でした。

写真はイメージです(写真/Shutterstock)
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チームが発足して半年ほど経った頃、1年前に転職してきたKさん(男性20代)が、林さんのチームに配属されてきました。それまで林さんはKさんと接点がなかったので、話したことはありませんでしたが、かなり優秀な人物だということを社内の噂で知っていました。

Kさんは海外の有名大学院を優秀な成績で修了し、英語はもちろん、ドイツ語や中国語も堪能でした。IQの高い人だけが入会できるMENSA(メンサ)の会員でもあったそうです。

Kさんが優秀であることは、配属されてすぐにわかりました。全員で考えても解決策がわからなかった難しい課題でも、Kさんは的確な解決の糸口を見つけ出し、仕事のミスもほぼありませんでした。それどころか、上司や同僚の業務を先回りして対応するなど、立ち回りの良さも併せ持っていました。

Kさんは事業部長クラス(林さんの上司)が出席する戦略会議などでも、難解な案件を素早く理解し、鋭い分析をしていました。林さんの上司の事業部長をはじめ会議の参加者は、「Kさんは本当にすごいなぁ」と口々に言っていました。

林さんの部下たちは次第にKさんを頼るようになり、チーム全員で一から整備してきた仕事の処理手順も、Kさんによって最適化されていきました。気づけば「Kさんに任せれば大丈夫」という空気がチーム内に広がっていたのです。

写真はイメージです(写真/Shutterstock)
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林さんは、表向きは部下であるKさんを褒め、評価している振りはしていました。しかし、心の奥底では「このチームでの自分の存在感が薄くなっていないだろうか」というモヤモヤした気持ちを抱えることもありました。

あるとき、林さんのチームに、超大手企業のコンサルティング契約のチャンスが巡ってきました。林さんのチームがその企業へのプレゼンをすることになりましたが、突然Kさんが「僕が来月のプレゼンをやりましょうか?」と言ってきました。

その言葉を聞いた瞬間、林さんはカッとなり、「これは新参者の仕事ではなく、決裁権を持つリーダーがやるのが当然の大仕事だろう」と言いそうになりました。しかし、その怒りをグッとこらえて、「気持ちはありがたいけど……」と断りかけた瞬間、(いや、待て。自分よりもKのプレゼンのほうが成功する確率が高いのであれば……)とも思いました。

彼は、この葛藤に悩みはじめ、結局は「少し考えるから」と言って時間を置くことにしました。