キモになったのは、優秀だけど扱いにくい人間たち

私が開発に携わった初代オデッセイや軽自動車のNシリーズの開発チームは、変わり者の集まりでした。ミニバンや軽自動車は何度も商品企画が立ち上がっては、そのたびに失敗を繰り返してきました。

いわば不可能命題みたいなものです。大体、そういうところには、優秀な人間は配属されないのです。何かちょっと一癖二癖がある、変わった人間しか割り当てられません。

そういう人間の集まりでしたが、きちんと成果を出すことができました。そこでキモになったのは、優秀だけど扱いにくい人間たちでした。そういう人間はやる気があるときとないときで全然違うのですが、彼らにどうやって能力を発揮してもらうかが勝負でした。おそらく、それはどこの会社でも共通していえることだと思います。

F1には優秀な人間がたくさん来ていましたが、やっぱり世界一になろうとすると、優秀だけど扱いにくい人たちがどう化けるのかがプロジェクトの成否の鍵を握りました。

そういう人間は強いこだわりがあるのですが、コミュニケーションが下手で、人の顔色をあまり読むことができません。

だから同僚や上司としょっちゅう喧嘩をしたりして、周囲とうまく付き合うことができず、会社が順調に回っているときには彼らは変わり者として隅っこに追いやられ、本来の実力を発揮できていないのですが、条件や環境がガチッと合うと期待以上、150%ぐらいの活躍をします。

テスラやXを所有する起業家のイーロン・マスクだって、発明家のトーマス・エジソンだって、相対性理論を発見した物理学者のアルベルト・アインシュタインだって、もっといえばホンダ創業者の本田宗一郎さんだって、多少なりとも強いこだわりを持った変わり者だと思います。

常識にとらわれず、興味があることには24時間集中していても苦にならない。むしろ楽しいと感じて、時には食事をするのも忘れて没頭してしまう。そういう性格じゃないと、難しいことを成し遂げることはできません。

普通の価値観を持ち、なんでもそつなくこなす、一般的に頭のいいタイプは、どこの会社にも3割ぐらいいると思います。そういう優秀な人間は誰が上司であろうと、どこのチームに配属されてもコンスタントに仕事をこなしてくれます。

組織にとってありがたい存在で、絶対に必要です。彼らがいないと会社や日々の仕事は回っていきません。だけど危機を突破するときには、変わり者がキモになります。

構成/川原田 剛

危機を乗り越える力 ホンダF1を世界一に導いた技術者のどん底からの挑戦
浅木 泰昭
危機を乗り越える力 ホンダF1を世界一に導いた技術者のどん底からの挑戦
2024年3月26日発売
1,760円(税込)
四六判/256ページ
ISBN: 978-4-7976-7445-3

F1最強パワーユニットと軽自動車「N-BOX」を
生んだ、稀代のエンジニアによる
唯一無二のリーダー論!

ホンダに30年ぶりのF1タイトルをもたらしたパワーユニット開発の陣頭指揮を執り、9年連続で軽自動車販売トップを独走するN-BOXの生みの親でもある元ホンダ技術者が、プロジェクト成功の真の舞台裏を明かす。

第2期F1時代の奮闘エピソード、ホンダ創業者・本田宗一郎さんとの思い出、初代オデッセイ、N-BOXの開発秘話、どん底からのF1プロジェクト立て直し、F1復帰に向けた「蜘蛛の糸作戦」の全貌、アストンマーティン・ホンダの勝算など。

芸能界随一のF1ファン、堂本光一氏との
スペシャル対談も収録!!

〇目次
第1章 ホンダ入社と第2期F1 世界トップの現場で得た教訓と自信
第2章 V6エンジン開発と初代オデッセイ 閉ざされた出世の道と技術者人生最大の危機
第3章 N-BOXがヒットし続ける理由 コストではなくコストパフォーマンスの勝負
第4章 定年半年前に再びF1へ ホンダの未来のために若手に何を残せるか
第5章 F1復帰への「蜘蛛の糸作戦」 リーダーに不可欠な成功のためのストーリーづくり
第6章 F1の未来とホンダの新たな挑戦 アストンマーティン・ホンダは勝てるのか
第7章 ホンダの存在価値と日本の危機 尖った才能を持った変わり者を組織の中でどう活かすか
スペシャル対談 堂本光一×浅木泰昭 なぜホンダはF1で再び世界一を獲れたのか?

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