危機が人を成長させる

会社が危機に直面してどんどんダメになってくると、変な人間を潰す元気もなくなってきて、むしろ頼らざるを得なくなってきます。

本当にどん底に落ちそうになったときに仕方なしにそういう人間に頼んで、ポッと出てきて世の中を変えるような画期的な商品を開発したり、世界一になるという快挙を成し遂げたりする。それが面白いと思いますし、ホンダはそうやって成長してきた会社です。

今、F1で活躍している若いスタッフたちがリーダーになる10年後、20年後にそういう人間がある一定の確率で出てくるはずだと思い、自分の背中を見せてきました。もちろん見せたら必ずできるものではありませんが、見ないよりは見たほうが近づくことができますし、仕事のやり方を覚えることもできます。

世界一になるという景色を一度も見たことがない者より、見たことがある者のほうが強いと私は思っています。若い人間にとって、このF1での経験がこれからの技術者人生の中で大きな意味があったと信じています。

N-BOXの開発を私と共にやった部下たちも、まったく売れていないホンダの軽自動車のプロジェクトをいちから立ち上げ、多くの困難を乗り越えて、日本一売れる車を世の中に送り出すことができました。そういう経験をした人と、したことのない人とを比べると、やっぱり技術者としての成長度や自信が全然違うと思います。

軽自動車のN-BOXとF1ではまったく世界が異なりますから、違ったタイプのリーダーが育ってくるのではないかと期待しています。

ただ、危機のときに力を発揮する変な人間は順調なときにはあまり役に立たないケースもあります。上に立つ人間は、彼らを踏みつけるぐらいはいいですが、除草剤を撒いて根まで枯らしてしまうと、本当の危機のときに生えてきません。変わり者を排除せずに、いちおう会社の中に居場所を残しておくことが大事だと思います。