「一度ついた火を消せない」

「やったほうがいいよ。こういうチャンスは逃したら二度とやってこない。自分の中に悔いがあったり、後悔するんじゃないかという思いが少しでもあるなら、やったほうがいい、絶対に。

工場のプロジェクトは、またいくらでもチャンスがあると思う。ただ、男闘呼組再始動ということになれば、チャンスは二度とないかもしれない。やるだけやってみるべきじゃないか?」

昭次が3年後の2023年に男闘呼組を復活させ解散ライブを行い、ケジメをつける計画だと伝えると、社長は言ってくれた。

「だったら3年後、戻って来ればいい」

昭次は「まだ僕と社長だけの話にしてください」と伝え報告を終えたが、翌日出社すると、すでに同僚たちは知っていた。
「いつ東京行くの? 」
「頑張れよ。ライブ行くからな」

その後昭次は、和也、耕陽と何度も話し合った。和也も耕陽も「一度冷静になれ」と昭次を落ち着かせようとした。
耕陽が言った。

「お世話になった会社を辞めていいのか? 社長にお世話になったんだろ? 男闘呼組再始動の方法はひとつじゃない。自分のつてをたどって再始動するって方法もある。会社勤めをしながらできる再始動の形を追求してみてもいいんじゃないか?」

耕陽の提案は至極まっとうなものに聞こえ、昭次の葛藤は続いた。

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「常識的に考えて、50歳をすぎた人間が、しかも、10年のブランクがあるにもかかわらず、すべてをなげうって何かに挑戦するというのは、あまりにも現実的じゃない。僕自身がブランクを乗り越えられるかはもちろん、男闘呼組を再始動させるためには、越えなければならない壁が無数にある。ある意味で非現実的だというか……」

それでも、昭次は立ち止まることよりも、一歩踏み出すことを決める。「一度ついた火を消せない」と常識も現実も度外視した。

「このまま男闘呼組再始動に関して何も行動を起こさなかったら、きっと今際の際に後悔する。男闘呼組を再始動させるチャンスとタイミングがあったのに、みすみす見逃したまま死ねない」

今度は、昭次が和也と耕陽を説得する番だった。

「男闘呼組は休止しただけ。また動かないと。解散もしてない。解散ライブもしていない。このままでは、あの日応援してくれた人たち、ファンの人たち、スタッフの人たちに対して、あまりにも不義理だ。

メンバー全員が50歳をすぎ、あの日何が起こったのか受け止めることができるようになったんだよ。あの日つけられなかったケジメをつけよう」

最後は和也も耕陽も賛同してくれた。その瞬間を耕陽が振り返る。

「昭次が言ったんです。『男闘呼組を再始動させてケジメをつけたい』って。俺も和也も、最後まで昭次のことを心配してました。それでも、昭次がそう決めたのなら、やってみよう。信じようって。

それを和也にも伝えて、和也も『じゃあわかった』って。だから、ある意味で男闘呼組再始動に関して、提案したのは健ちゃんかもしれないけど、決定権は昭次にあったと言うか。俺も和也も、昭次が決断しなければ、絶対に再始動に賛同できなかったからさ。そう、だから、男闘呼組の再始動を決めたのは昭次なんだと思ってる」