「金太郎、明美を愛する。」(集英社文庫・コミック版1巻収録)
「俺の女は……こいつ一人だ」
最愛の彼女・明美が性被害を受け、自殺未遂をした。心が死んだ明美のために金太郎が行なったのが、彼女をバイクの後ろに乗せての、日本最大規模の暴走行為だった。
2万台のバイクが集まり、都内を爆走。警察と衝突しながら、ついに目的としていた多摩川の河川敷へとたどり着く。
そのとき、3人の族が金太郎の前に現れる。明美を襲ったのは自分たちだと名乗り出る。しかも、金太郎の彼女だと知ったうえでの犯行だったと。
「何されたって文句はねえ! ぶっ殺されたっていいぜ!」
涙を流しながらの懺悔。
これまで金太郎は、売られた喧嘩は必ず買い、サラリーマンになった後も相手を完膚なきまでに叩きのめしてきた。その爽快さこそが、『サラリーマン金太郎』初期の魅力でもある。
だから思う。(ここでも、やってしまえ……!)と。読者の多くも、そう感じるはずだ。
ナレーションも語る。「みんな思ってた。殺さないまでも、手足の二、三本はもぎとっちまうだろうと」
殴ってくれ。ぶちのめしてくれ。
現在の刑法では、不同意性交等罪は原則として5年以上の有期拘禁刑。重大な犯罪であることは言うまでもない。それでもなお、犯した罪の重さに対して、刑が追いつかないと感じる人もいるだろう。
だからこそ、金太郎には拳にすべてを込めてほしい――そう思ってしまう。
だが、金太郎は違った。
「関係ねえよ」
「そんな事はまるっきり関係ねえ。何がどうあろうが、俺が明美に惚れてることは変わりゃあしねえ。俺と明美だけの問題だ。俺の女は……こいつ一人だ」
復讐の言葉ではない。罵倒でもない。怒りの爆発でもない。金太郎が選んだのは、隣にいる明美への愛の言葉だった。
暴力で決着をつけてほしい場面で、彼が選んだのは言葉。
ある意味でこの瞬間、金太郎は暴走族の“総長”から一歩進んだのかもしれない。最後の大暴走の果てにたどり着いた、ひとつの到達点だ。
明美のためになぜ暴走したのか。なぜ殴らずに言葉を選んだのか。おそらく金太郎は理屈で動いてはいない。すべて直感だ。だがその直感こそ、ときに社会を生き抜くうえで必要になる力でもある。
第12話は、暴走族の総長・金太郎が、後に企業社会で理不尽と戦う男へと変わっていく、その兆しを見せた回だ。























