過去から未来の知恵を学ぶ

同アーカイブは2021年に一度リニューアルされたが、その後、AIでプログラミングができる技術が大きく発達した。これまで渡邉氏一人では限界があった軽量化や、スマートフォンでもスムーズに操作ができるようにするといった部分をAIが大きく改良した。

「今はパソコンでコンテンツを見ることが少なくなり、スマートフォンなどが主体ですよね。それに合わせて更新して公開しました。発表後はXで爆発的に再生され、たくさんの人がスクリーンショット付きで感想を残してくれました。改めて15年を迎えるにあたって、皆さんの手元でこういう強い実感を抱いていただきたいと思っています」(渡邉氏)

大きな反響を呼んだ一方で、「犠牲者の最後の記録を公開することを、遺族は本当に望んでいるのか?」という声もあった。

「2016年の発表当時は亡くなった方の名前を伏せていました。まだ5年しか経っていなかったことと、ご覧になる方にとって肉親や知り合いの名前がはっきり出るのは衝撃が大きいのではないかと思ったのです。2021年になって初めて名前を載せましたが、特に反発はありませんでした。

時を経て少しずつ受け止め方が変わっていく中で、遺族側の意識も『次の世代に伝える』ことへとシフトしているのだと思います。

最近では、ご遺族から『当日の詳細な行動データも提供したい』というご連絡をいただくことさえあります。忘れてほしくないという方向に、人々の心が向かっているのを感じます」(渡邉氏)

岩手日報の読者からも肯定的な反応が多く、ご遺族からも強い否定はなかったという。

「アーカイブを見ていると『この人もここにいたんだね』と、思い出話が始まることもあります。私自身も友人を亡くしていますが、語ることで気持ちが和らぐ人もいますし、もちろん話したくない人もいます。そういう意味で、一つのきっかけになっているのではないかと思います」(鹿糠氏)

震災の捉え方は人それぞれだ。あの日のことをトラウマとして抱え、今もなお、苦しい出来事として記憶している人もいる。

「3月が来るたびに津波の映像を見たくないという人もいます。『忘れない』という思いと同時に、『忘れさせてほしい』という気持ちもあるのが現実です。そういった人々がいることを大前提として、それでも私たちは、次の災害で同じ悲劇を繰り返さないために、命を守るきっかけとして伝え続けたいと思っています」

彼らをここまで突き動かす原動力は、一体何なのだろうか? 渡邉氏と鹿糠氏の両氏に聞いた。

「過去の出来事を未来のこととして感じてもらう。それが僕の信念の根底にあります。災害にせよ戦争にせよ、未来に起こる可能性のあることなので、それと等価に感じてもらう。未来の種は過去の中にあるんです。普段は忘れてしまうことでも、節目節目で立ち返り、過去から未来への知恵を学ぶ。そんなきっかけを、これからも提供し続けていきたいと思っています」(渡邉氏)

「以前、アーカイブを使って小学生に授業をした時の感想に、『意味のある避難訓練をしたい』と書いてくれた児童がいました。津波は来ない地域ですが、避難訓練のための避難訓練ではなく、本当に命を守るための訓練をしたいと。亡くなった人の思いが次の世代に生きていく。少し非科学的かもしれませんが、そういう意味で、このアーカイブの価値はこれからさらに大きくなると思っています」(鹿糠氏)

最新技術が過去を可視化し、悲劇を繰り返さないために私たちに何ができるかを問いかけている。

東京大学大学院の渡邉英徳研究室と岩手日報社が共同制作したデジタルアーカイブ『忘れない~震災犠牲者の行動記録』(画像/渡邉英徳氏より提供)
東京大学大学院の渡邉英徳研究室と岩手日報社が共同制作したデジタルアーカイブ『忘れない~震災犠牲者の行動記録』(画像/渡邉英徳氏より提供)
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取材・文/千駄木雄大