日常を奪った破滅的事故
青木 内田さんに最後にお聞きしたいのは原子力発電という巨大発電装置についてです。今作で記したように飯舘村は阿武隈高地に載った高原の村で、気候も冷涼で、しかも春から夏にかけては時に冷たいヤマセが吹きつけ、歴史的には凶作や飢饉に繰り返し襲われてきた厳しい環境の村でした。
そうした厳しい地で村人たちは田畑を開墾し、耕し、コメを作り、野菜を作り、102歳で自死した大久保文雄さんもその一人ですが、それだけでは生計が成り立たないから桑を育てて蚕を飼い、あるいは葉タバコを育てたりして懸命に生活を営んできたわけです。
内田 大久保家では牛も飼っていましたよね。
青木 はい、わずかですが肉牛用の子牛を育てて出荷した時期もあったそうです。気候的に厳しい環境の村は、これをやっておけば安心という作物があるわけではなく、懸命に試行錯誤を繰り返してきたのでしょう。戦後になると村人たちは、天候などに左右されにくい畜産や酪農にも力を注ぎ、特に「飯舘村牛」は村の特産品として知名度もあげはじめたところでした。
つまり、厳しい環境の村ではあったけれど、村人たちが歯を食いしばって農業や畜産、酪農などに取り組み、だから村の田畑や山々は毎年豊かな実りをもたらしてくれるようになっていた。取材で村に通ううち、村人たちの苦労に裏打ちされた豊かさを僕は心底から実感し、それは本書のなかでも頁を割いて描写しています。
そんな村人たちの営みが3・11によって無惨に切断されてしまったわけですが、飯舘村に関して言えば、津波はもちろん震災の直接的被害は皆無に近かったんですね。あの福島第一原発の破滅的事故さえなければ、間違いなく従来の営みを続けることができた。
しかし、事故原発が撒き散らした大量の放射性物質によって田畑も山林も汚染され、一時は「全村避難」を強いられ、今に至るも帰還率は2割ほど。村がかつての姿を取り戻すことは、ひょっとしたらないかもしれない。その現実に、僕は今も足がすくみます。先ほど内田さんは人間の生活における食料、医療、教育の重要性を語られ、僕もまったく同感ですが、その次に位置づけられるのはエネルギーかもしれません。さて、これをどう考えるべきか。直裁に伺いますが、内田さんは原発についてどうお考えですか。
内田 僕はずっと原発反対ですよ。20代の頃に「No Nuke」のバッチつけて、スナックでお酒を飲んでいたら、横にいたサラリーマンに、「おまえ、原発反対なのか」と絡まれましてね。「じゃあ、お前は石器時代に戻ってもいいのか。だったら、お前絶対電気使うなよ」と、さんざん嫌味を言われたことがありましたね。
青木 電力会社の社員だったんですかね(笑)。
内田 普通のサラリーマンでしたね。以前、民主党の面々とお酒を飲んでるときも同じようなことがありました。「内田さん、原発どう思いますか」と聞かれたので、「僕は原発反対ですよ。あんなもの人間にはコントロールできません。なくしたほうがいい」と言ったら、やっぱり「何言ってるんだ!」と怒鳴ってくる人がいた。「日本はエネルギーの95パーセント輸入しているんだぞ、原発がなくてどうするんだ」と言われました。
「いや、ウランだって輸入しているでしょ……」と言おうかと思ったけど、やめときました。なぜか、「原発反対」というと原発賛成派の人は感情的になりますよね。でも、怒るわりにはきちんとエビデンスを出してくれない。
青木 3・11以前は原発について語ること自体、主要メディアでもタブー化していましたから。
内田 きちんとリスクとベネフィットについて話せばいいんです。発電方式がいろいろある中で、原発が一番ベネフィットがあり、リスクが少ないということを証明してくれたら、僕だって賛成しますよ。でも、確かに短期的にはベネフィットはあるけれど、長期的にはそのベネフィットを全部吹き飛ばすリスクを抱えている。
テクノロジーについては、それがもたらすベネフィットとそれがもたらすリスクを比べて、リスクが大きい場合は開発に抑制的になるべきだという考え方のことを「テクノ・プルデンシャリズム」(techno-prudentialism /技術的慎重主義)と言います。僕はプラグマティストなので、昔からそういう考えです。テクノロジーは自然発生するものではなく、人間が創り出すものですから、ベネフィットよりもリスクが大きいテクノロジーの開発に関しては謙抑的になる方が合理的です。「ちょっと待って」というスタンスですね。
だから原発に関しても僕は、「ちょっと待て」です。もし完全に原発をコントロールできる技術を人間が持って、きれいに廃炉にできるとか、使用済み燃料や廃棄物を全部きれいに片づけられるテクノロジーが発明されたら、それから原発を稼働させればいいと思う。でも、今は駄目でしょう。それだけのテクノロジーがないんだから。廃炉にするまで何年かかるか分からない。廃棄物処理に10万年とか言っているわけですから。ベネフィットよりリスクの方が多いテクノロジーは使わない方がいい。それだけの話です。















