「下降移動組」

こうした「難関大学」への進学可能性をもっていたにもかかわらず、進学しなかった(できなかった)者たちを伊佐は「下降移動組」と名付け、誰が下降移動するのかを明らかにしている。

簡潔に述べるならば、男子と比べて女子の方が下降移動しやすい。先述した浪人のように、家庭の社会経済的背景や学習意欲が高いほど、三大都市圏に居住している場合、「難関大学」へ進学する傾向にあり、この傾向そのものについては男女差がみられない。ところが、そうした傾向とは関係なく下降移動する者が、女子にだけみられるという。

なぜ、女子は「難関大学」を回避してしまうのか。資格取得、職業教育の重視が背景にある、と伊佐は指摘する。

下降移動組の女子の13.8%が看護師、薬剤師、医療技術者といった医療職、8.6%が教職を高校2年生時点で希望する職種に挙げており、四年制の医療系学部と六年制薬学部、教職系学部へ実際に進学した下降移動組の女子は25.1%であった(男子は10.9%)。

医療・教職系学部は、「学力偏差値」が50〜59の大学に72.2%が位置づいており、「難関高校」からの進学としては下降移動へつながることになる*2

医療職・教職を女子が希望するのは、「将来の見通しが不透明」だからである。「難関高校」の女子の就業継続意識は、下降移動するかどうかにかかわらず、「結婚・子育てで仕事を中断するかもしれないが、基本的には一生働きたい」が5割、「働けなくなるまで一生仕事を続けたい」が1割程度となっており、キャリアの追求と向き合える(あるいは中断を気にしなくてよい)男子とは対照的に、キャリア継続へ向けた困難を想定しているという。

その中で実現可能性が高く、手堅いキャリアとして、医療職・教職が好まれている可能性を伊佐は指摘している。

写真はイメージです 写真/Shutterstock
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この研究を通して、伊佐は次のように述べている。

難関高校出身女子のライフコース展望には、男子のほとんどが想定していない、「結婚や子育てによる仕事の中断」が織り込まれている。

そうしたなかで、ライフイベントの影響を受けてもなお雇用や賃金の面での安定性が確保され、仕事と家庭の両立が図れる特定の職業へ、なおかつそれは女性役割の面からみても「女性向き」とされる特定の職業へと女性をいざなっていくジェンダー・トラックは、維持されている。

1990年代に中西祐子が明らかにした女子特有の進路選択、ジェンダー・トラックは、現在も存在している*3