複数の条件を考慮する進路選択

「大学を選択する論理とジェンダー」を著した教育社会学者の知念渉は、大学収容力の高い三大都市圏にもかかわらず、(特に男子校の)男子たちが浪人する傾向にあることを明らかにしている。

興味深いことに、男子は現役と浪人の間で大学選択の傾向がほとんど変わらず、入学難易度の高い国公立大学へ進学する傾向にあるという。

男子たちの進路選択は競争や上昇志向をもとに行われやすく、男子校のような「男子だけで構成された空間」は、特にそうした雰囲気が加熱されやすい土壌があるのかもしれない。

一方、女子は浪人の選択によって進学先の大学が異なる。浪人する女子は、男子と同じような大学進学をする傾向にあり、現役の女子は、1960年以降に新設された私立大学や「看護・保健・薬」の専攻へ進学する傾向にある。

浪人選択だけでなく、どの大学(あるいは専攻)へ進学するのか、についても大きく二つの軸が存在し、男女で重視する軸が異なっていると知念は指摘する。

一つ目が、「国立/私立」「地域移動あり/なし」「一般入試/推薦等」という軸である。知念によると、国公立大は大半が一般入試であり、学費が相対的に安いために地域移動も許容される一方、私立大は推薦入試等で入学する割合が高く、学費が相対的に高いために地域移動が許容されにくい。

どちらかと言うと、男子はこの軸を重視して大学進学を行う傾向にある。二つ目が、「教育」「医・歯・獣」「看護・保健・薬」という特定の職業と結びつきやすい専攻と、「人文科学」「社会科学」という汎用的な教養を身につけられる専攻という軸である。

女子はこちらの軸を重視して、大学進学を行う傾向にある*4

同性内でも出身地域によって傾向が異なる。三大都市圏出身者(特に女子)は、私立大学や「人文科学」「社会科学」を選択する傾向にある。

また、中核私立大学*5も進学先として選択される傾向にあり、中でも三大都市圏の男子は、国公立大への進学とは別に、中核私立大学への進学が典型的な選択肢として存在しているという。

地方中枢都市圏やその他の出身の女子も、私立大学を選択する傾向にあるが、三大都市圏の女子と比較して「教育」「医・歯・獣」「看護・保健・薬」の専攻を選択しやすい傾向にある。

写真はイメージです 写真/Shutterstock
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伊佐の研究も含め、女子の大学進学は、将来の職業と結びつくような、いわゆる「手に職」系の専攻が選択されやすい傾向にあるが、三大都市圏以外(「地方」)の女子たちが特にその傾向をもっているといえよう。

以上みてきたように、大学進学を選択する際、私たちは「国公立か私立か」「どの専攻か」「合格できるか」などのいずれか一つを悩むわけではなく、大学進学にかかわるそれらを総合的に検討し、最終的な選択を行うことになる。

その選択には出身地域や性別、高校の偏差値も影響していく。

知念の言葉を借りるならば、「複数の力学が作用する」中で大学進学は選択されている。どの大学(専攻)へ進学するのかは、社会的諸条件から自由に行うことが難しいのである。

脚注
*1 大学ごとに情報公開時期が異なっており、大阪大学と九州大学は2025年、それ以外の大学は2024年のデータとなっている。
*2 教職を希望することは、男女ともに下降移動へつながり、医療職は女子のみ下降移動へつながりやすいことを伊佐は指摘している。
*3 「難関大学」に限らず、女子は大学合格見込みを低く見積もる(悲観的な)傾向にある。豊永耕平(『学歴獲得の不平等―親子の進路選択と社会階層』勁草書房、2023年)によれば、女子は男子と比べて「頑張れば合格できる」と考える大学偏差値を1・977も低めに見込んでいる。興味深いことに、高校偏差値や校内成績などが同じくらいであっても、「頑張れば合格できる」と考える大学偏差値を女子は男子と比べて1・955も低く見積もる。
*4 進路希望においても、女子は男子より医療系や教育系を志望する傾向が明らかになっている(髙松里江「進路選択におけるジェンダー・トラック:男女間・同性内の進路希望の違いに着目して」、「理論と方法」第37巻(第2号)、2022年)。
*5 慶應義塾、中央、法政、明治、立教、早稲田、同志社、立命館、関西、関西学院を指す(豊永耕平「社会階層と社会移動全国調査(SSM調査)における学校名コードの加工」、「応用社会学研究」64号、2022年)。

なぜ「地方女子」は呪縛になるのか
寺町 晋哉
なぜ「地方女子」は呪縛になるのか
2026年1月17日発売
1,045円(税込)
新書判/208ページ
ISBN: 978-4-08-721394-2


大学進学において、生まれ育った地域、性別、通っている高校、保護者の学歴など、特に多くの壁=社会的諸条件を乗り越えなければならないのが「地方女子」。
個人の努力や意志の問題に矮小化すると、「壁を乗り越えられないのは自己責任」という重荷を子どもたちに背負わせかねず、「地方女子」を呪縛にしてしまう。
選択の背景にある「当たり前」はどのようにつくられているのか──。
本書では「地方女子」の置かれた現状を教育、制度、経済、社会意識、ジェンダーなど多角的な視点から分析し問う。

【目次】
序章 「地方女子」は「呪縛」なのか?
第1章 「地方」からみた大学進学
第2章 どのように”女の子”になるのか
第3章 理系から遠ざけられる女子たち
第4章 女子はなぜ四年制大学へ進学しにくいのか?
終章 「地方女子」を呪縛にしないために
あとがき

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