——お話を伺っていると、松本さんは「一人であること」をとてもポジティブに捉えていますよね。写真家になる前からそうだったのですか?

中学でも高校でも、ごくごく普通の奴だったと思いますよ。あ、でも大学生の頃に、意識的に人との関わりを遮断していた時期はありましたね。有り体に言えば、人生に悩んでいたんです。授業にも出ないし、家族や友だちにも会わない。生活費を稼ぐためにバイトはしていましたが、あとの時間は自分の将来について悶々と悩んでいました。今から振り返ると、人生のなかで孤独や不安を最も感じていたのは、あの頃かもしれないですね。

——松本さんにも、そんな時期があったんですね。

当時の僕には、一人になる時間が必要だったんだと思います。不安や焦りで一杯だったけれど、だからこそ自分の将来について真剣に考えることができた。星野道夫さんの作品に出会い、「自分もアラスカで写真を撮ろう!」と決めたのも、この時期です。本気で叶えたい目標ができると、孤独かどうかなんて、どうでもよくなりませんか? 少なくとも、僕はそうでした。

氷河の上で、50日間一人ぼっち。写真家・松本紀生さんに聞く、孤独のススメ_d

——明確な目標が見つからないことに悩んでいる人も、多いと思います。そういう人に、松本さんなら、どうアドバイスしますか?

うーん、難しい質問ですね……。やっぱり、まずは自分と向き合うことではないでしょうか。お前はこのままでいいのか、と。そこで「このままじゃダメだ!」と本気で思ったときに、人ははじめて大きな一歩を踏み出せるのではないでしょうか。もしかすると、今、孤独を感じている人は、そうやって自分と対話をするチャンスなのかもしれないですよね。

——まさに孤独のポジティブな側面ですね。最後に、松本さん自身の今後の目標を教えてください。

コロナ禍も少し落ち着いたので、間もなく2年ぶりにアラスカへと旅立ちます。今回はまず、気候変動について取材する予定です。アラスカには、温暖化による地盤沈下で、住民が移住を余儀なくされている小さな村があって。その被害の様子を、この目で確かめたいと考えています。
その後は、またキャンプをしながら、クジラや森のなかの動植物を撮影する予定です。本当に久しぶりのアラスカなので、思いっきり楽しんでこようと思います。

——アラスカから帰ってきたら、またぜひお話を聞かせてください。本日はありがとうございました!

取材・文/福地敦 写真提供/松本紀生