「金太郎、入社する。」(集英社文庫・コミック版1巻収録)

入社初日から、まさかのパトカーに乗って初出社を決めた矢島金太郎。元暴走族総長らしさ全開で、早くも伝説の幕開けを予感させる。

だがここで気になるのは、なぜ金太郎はサラリーマンになったのか。そして、なぜ入社できたのか。

実は金太郎、海で船がエンストし漂流していた会社の会長を救っていた。命の恩人となった金太郎に、会長は「何かお礼がしたい」と申し出る。そこで金太郎が口にしたのが、

「俺、一度やってみてぇと思ってたんだ。サラリーマンてやつを」

こうして金太郎は、会長推薦という超特別待遇で中途入社を果たす。ところが、そんな金太郎に最初に任された業務は、まさかの鉛筆削りだった。

え? どういうこと? そんな仕事ある? 入社早々の嫌がらせ? 命の恩人なのに?

そう思ってしまうが、実はこれ、本当に存在していた業務なのだ。

昭和の会社では、伝票や台帳、メモ書きの多くが鉛筆で書かれており、常に“削れた鉛筆”が必要だった。その管理を担っていたのが、庶務や新人社員。部署中の鉛筆を集め、手回し式の鉛筆削りや小刀で黙々と削る。それが、れっきとした「仕事」だった時代がある。

作中でも金太郎は、カッター片手に一日中、鉛筆を削り続ける。入社してきたものの、どう扱っていいかわからない金太郎への、庶務課の苦肉の策だったわけだが、この描写は決して荒唐無稽ではない。

ちなみに当時の会社には、ほかにも今では考えられない“とんでも業務”がいくつも存在した。

代表的なのは「お茶汲み専任業務」。来客や上司のため、温度や濃さまで指定されたお茶を出す仕事。主に女性が担当させられることも多く、ひと昔まえの会社、ドラマなどでよく見た光景だ。

さらに「灰皿交換係」なんてものも。喫煙しながら仕事をするのが当たり前だった時代、上司の机を回って社内中の灰皿を回収・洗浄するのも仕事で、これも新人などがやらされていた。

今なら「これが仕事なの?」と言われそうなことだが、当時は確かに、会社を回すための役割として存在していたのだ。

金太郎に押し付けられた鉛筆削りは、単なる嫌がらせではない。会社が、新入りをどう扱うかを象徴する、極めてリアルな描写だったともいえる。

だが果たして、金太郎が一日中おとなしく鉛筆を削り続けるのか。そして、この人事を決めた会長の思惑とは。それでは「サラリーマン金太郎」第2話をどうぞ。